ユイさんのポイズンクッキング






   ロマリアからカザーブへの道の途中。野宿の準備をしている仲間たちとは少し離れたところでシキとティルは距離をとり、向かい合っていた。
 距離のほどは数十メートル、シキは左足を、ティルは右足を少々前に出し構えをとっている。その体制のまま両者とも数十秒、まったく動いていない。
 二人の間をひゅうっと音を立てて風が吹く。


 その風が止んだ時、


 二人は同時に動き出した。


 一直線に飛び出すとちょうど二人のいた場所の中間点にたどり着くと同時に拳を突き出したとき、
「ティル!シキ!!大変だ!!!!」
そう叫びながらユウとエルがこちらへ向かって掛けてきた。
「えっ?」
 シキとティルは自分の前方―相手の顔面目指して突き出した拳を寸前のところで静止させ、ユウのほうを振り返り何事も無かったかのようにユウに訊ねる。
「ユウ?どうかした?」
 ユウのほうも二人が修行をしていたことを知っているのでそれを気にせず口を開く。
「・・・・・・ねっ」
「ね?」
「姉さんに、料理作らせたの誰!!!!」
「???」


 ティルとシキは疑問符を浮かべてエルのほうを見る。どういうことか説明しろということなのだがエルは気にせず先ほどのユウの質問を繰り返す。
「・・・ユイに夕食を作らせたのは貴方たちですか?」
「じっ自分でやるって言ったから・・・」
それを聞いてユウとエルは同時に深いため息を吐いた。


「何か、問題があるのか?」
「料理へたとか?」
 ユウは疲れたように首をがくんと垂らす。
「下手どころじゃないよ・・・」
ユウと似たような表情をしたエルが続ける。
「あれは人間の食べ物ではありませんよ。」
「ねえさんの・・・」「ユイさんの・・・」
「「スライム焼き・・・」」


 ティルとシキの二人の顔からサッと血の気が引いた。


 はっとエルが思い出したように言う。
「でも、当番は二人ですし、もしかしたらなんとか・・・」
「今日の…料理、当番」
「レイだ・・・・・・」
「もしかして・・・」
「あいつが一人でまともな料理を作れるわけが無い。」


 四人は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。






   ティルは目の前にあるモノから一旦目をそらせた。横で同じような行動を取ったシキと目が合うと、二人同時にため息を吐いてもう一度視界を前方のモノへと向ける。
・・・やはり、目前にあるモノは変わらない。


 ティルはある人物のほうを向くと前方にあるモノを指して訊ねる。
「・・・・・・なんですか、これ・・・」
「なにって、デスフラッターの丸焼きだけど?苦労したのよ〜獲ってくるの。」
(どこから・・・そんなものを・・・)
 今自分たちはロマリア、カザーブ間にいるはずだ。目の前で逆さまに吊るされているデスフラッター(おおがらすとよく似た姿をした魔鳥のことである)の生息地はカザーブからさらに北に山を越えたノアニールの近辺に生息する魔物のはずである。・・・明らかにここから数時間で獲って戻ってこれるような距離ではない。 ――しかし現に自分たちの目の前にはその魔鳥が毒々しい緑色の羽毛を残したまま逆さまに吊るされている。


「じゃあ・・・あれは?」
 ティルは恐る恐る鍋の方を指す。
「見て分からない?マタンゴのキノコスープだけど。」
「・・・・・・」
 ちなみにマタンゴとはキノコのような形をしたモンスターの一種である。
 デスフラッターの生息するノアニールのさらに奥や今は関所を通過することができないポルトガの近辺に生息すると云われている。どちらにしろ人間がこの数時間の間に獲りにいける距離ではない。
「どうやって、デスフラッターやマタンゴなんか・・・」
「知りたい?」  ユイは笑顔で訊ね返す。その手には戦闘のときに手にしている剣ではなく、料理に使用したおたま(紫色の不気味な液体が付着している。マタンゴを煮詰めたときにでた体液だろうか・・・)が握られている。
「いえ・・・なんでもないです。」
「そう?聞きたいことがあるなら遠慮しなくてもいいのよ。」
「いえ質問なんて滅相も無い。」
 本当なら質問は大いにある。そもそもこの料理?が人間が食べれるものなのかも定かではない。
 しかもおそらくユイはそのことを分かった上でそれを夕食として出してきている。ユイと、もう一人の料理当番であるレイの食事はまともな、人間の食べ物である。・・・とても同じ人が作った料理とは思えない。


 ティルは今度はユウとエルのほうを向き、訊ねる。
「・・・・・・なんで・・・平気で食べてるの・・・二人とも・・・」
 ユウとエルはこれが普通の料理であるかのように口に運んでいる。顔を少々歪めてはいるが・・・
「なんでって・・・」
「・・・慣れてますから」
 ・・・どうやらおいしく食べるための極意を知っているわけではないようだ。


(慣れれるものなのか?これは・・・)
自問自答しながら視線を自分の前方に戻すが。やはりそこにあるのは毒々しい色をした魔鳥の丸焼きである。
「・・・・・・」
「二人とも、まさか食べれないわけじゃあないわよね?」
まったく手を動かそうとしないティルとシキにたいしてユイは笑顔を崩さず訊ねてくる。
「うっ・・・」
 ティルは(おそらくシキもだろう。)いままでの年のわりに長い冒険者生活の中でも一、二を争うほどの生命の危機を感じた。
 足掻いたところで無駄だろうといつの間にかお碗へと移されたマタンゴのキノコスープを手に取ると、
「シキ・・・死ぬときは一緒だからね・・・」 と、相棒に一声かけた。シキのほうも諦めたようで
「せめて軍隊蟹にしてくれ・・・」
と呟きながらお碗を手に取った。





 その後、ティルとシキはユウとエルのホイミやキアリー等によって一命を取り留めたとか、いないとか・・・




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