第12話−vsカンダタ






 ユイが狙うのは唯一人、盗賊団『黒き翼』の頭、自分のことを『オルテガの娘』と呼ぶ、戦斧を構える大男。 周りにいる三人の部下たちを完全に無視してユイはカンダタに飛び掛かった。しかし、頭を狙うユイの為に盗賊達が態々道を開けてくれるはずもなく。
「させるか!!」
 行く手を阻む盗賊達をあっさりと躱すとユイはほんの一瞬だけ意識を後ろへと向けて叫んだ。
「ユウ、エル! 任せるわ!!」
「わかりました。」
「わっ、わかった。」
 落ち着き払った声と若干焦りを帯びた声を聞きながら、ユイは剣を大きく振り被りカンダタへと斬りかかった。
「おっと」
 カンダタは落ち着き払った様子で重い戦斧を軽々と持ち上げてそれを受け止めると殆ど力も籠めずにそれを振るってユイを弾き返した。
「おいお前ら!そいつら通すんじゃねえぞ!」
 カンダタはユウたちと対峙する手下の盗賊達にそう指示を飛ばすと、綺麗に着地を決めたユイに向かって好戦的な笑みを浮かべた。
「どうした、もう終わりか?」
「冗談。んなわけないでしょうが!」
 ユイは先ほどよりも落ち着いた様子で剣を構え、カンダタを見据えてそう返した。

 キンッキンッと幾度か短く金属音が響き、打ち合っていた盗賊の一人が大きく後ろに飛び退いたかと思うと、もう一人が横薙ぎの構えで剣を構えて飛び掛かってきた。
「――っ!」
 コンビネーションを生かした隙のない攻撃を何とか防ぎ、ユウはそれを弾き返した。
「っ、はぁ…」
 大きく息を吐き出しながらも隙なく構え、ユウは盗賊達を見やった。
 ユイとカンダタを除き、人数的には三対三。しかしレイは戦う力を殆ど持っていないので実質三対二である。 おまけに前衛で戦えるのがユウだけときている。それだけでも圧倒的に不利だというのに盗賊達の素早い動きに翻弄されてエルと引き剥がされてしまったのだから状況はなお悪い。
 二対一という状況で、おまけに後ろに控えるレイを気遣いながら戦っていれば自然と手数は減ってくる。剣を交える合間にエルの方を見やればそちらも防戦一方となっているのが伺える。
「ユウ、危ない!!」
 後方から響いた高い声に、余所へと向けていた意識を引き戻されて、ユウは盗賊の一人が死角から間近に迫っていることを知った。
「くっ!」
 転げる様にして辛うじてそれを躱し、崩れた体勢を素早く立て直すと再び剣を構えなおす。
「ありがとうレイ!助かったよ!」
「いいから、次来るわよ!!」
 レイの言葉通り、盗賊達が動き出すのを捉え、ユウは防御の構えをとった。
(…この人たち、)
 相手はコンビで動いているのだから、先程体勢を崩した際にいくらでも追撃を仕掛けることが出来た筈だ。そうすれば勝敗はあっという間に決まっていたことだろう。 それなのに、不思議なことに彼等は追撃を入れるどころか此方が体勢を整えるのを待っていたかのように思える。 それに先程から、無防備で狙いやすいはずのレイを狙った動作は一度も無い。
(もしかしたら……)
 盗賊団『黒き翼』は義賊だ。貧しい人や病に倒れた人を救うための活動をしているらしい。 もしかしたら彼等には、此方を傷つける意思は無いのではないだろうか。
 そう思い当たると、ユウは自身の思い付きを信じて動いた。

「っ!この!!」
 余裕綽々で構えるカンダタに素早い斬撃を繰り出す。剣は戦斧によっていとも簡単に弾かれるが、ユイはその状態からすぐさま体勢を整え次の一撃を繰り出した。
 しかし間を置かず繰り出したはずの攻撃をカンダタは軽く身を逸らすことで避け、さらに追撃を入れようとするユイを軽く戦斧を振るうことで牽制した。
「くっ…!」
 大きく距離を開けユイは忌々しげに舌打ちした。
 戦斧を軽々と操る大男に、力ではどうあがいても敵わない。しかし素早さならば此方に部があると踏んで手数の多さを生かした攻撃で攻めているのだが、 カンダタもそれを的確に理解し必要以上に得物を大きく振るおうとせず、必要最低限の動きで全ての攻撃を捌いていく。
「大口を叩いていた割に、随分と呆気無いことだな。」
 おまけに時折余裕の笑みを浮かべてこうして挑発することも忘れない。カンダタがまだ本気を出していないことは火を見るよりも明らかで、時が経つ事にユイの焦りは高まっていく。それでも、
(絶っ対に、負けるもんですか!!)
 この男への敗北を認めることをユイは絶対に許すことが出来なかった。

 盗賊達がレイを狙ってこないことを慎重に確認した後、ユウは盗賊達の攻撃の隙を衝いてエルの元へと向かった。
 エルと背中合わせに剣を構え、ユウはエルへと囁いた。
「エルさん、この人たち僕たちを傷付ける気は無いみたいですけど…」
「そのようですね。」
 エルは頷くと杖を大きく振るい襲い来る刃を弾いた。
「どうやら、彼等は我々をユイさんの元へ行かせたくないようです。」
 足止めだけが目的であるから無理に相手を傷付ける必要もない。それならば義賊としてのプライドを貫く。といったところか。
「この状況下で人を傷付けないという理念は素晴らしいと思いますが、こちらにはそれに付き合っている余裕はありません。」
 エルはユイとカンダタの対峙の様子を垣間見ながら険しい表情で告げた。
戦いが始まってから、ユイは常に攻め続けているが、その表情に少しずつ焦りの色が浮かんできている。ユイはそう言った表情を隠すことを割合得意としているが、 その表情の変化を、共に旅するエルは明確に察知していた。
 今すぐにでも彼女の加勢に行きたいが、その為には目の前の盗賊達は邪魔でしかない。
「ユウ君、少しの間足止めをお願いできますか? ほんの少しの間で構いません。僕のところに、絶対に彼等を来させないで下さい。」
「えっ?!」
 焦りを帯びた様子で尋ね返すユウにエルははっきりとした口調で続けた。
「一気に終わらせます。」
 相手が此方を傷付ける気が無いというのなら、そこに付け入る隙はある。
 良心は痛むがエルの心中にはそれにも勝る明確な優先順位が存在した。
「…分かりました。なんとか、やってみます。」
 ユウが頷き剣を構え直すのと同時に、エルは大きく後ろへと退くと前面に杖を構え呪文を唱え始めた。











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  後半エルがやけにきびきびと動いてくれました。が、彼の一人称は未だにどうしようか迷います。
  僕もしくは私。状況によってどっちも使います。きっと…
  普段は良心を取るエルですが、ユイが絡むと話は別のようです。








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