第13話−vsカンダタ2






 エルが詠唱に取り掛かると、三人の盗賊たちは皆一様に詠唱を止めさせようと動き出した。 ユウはエルの前に立ちはだかり、盗賊たちの攻撃に備えて前方に意識を集中させた。
 正面から向かってきた一人を剣を振るって弾き返すと、返す刃で二人目を。そして半ば以上捨て身の状態で最後の一人の前に飛び込むと、盗賊は一瞬得物を振るうことを躊躇した様子で身を固くした。
その隙を付いてユウが当て身を喰らわした直後、凝縮した魔力が跳ね上がった。
「ユウ!!」
「――バギ!」
 焦りを帯びた声音でレイが叫び、ユウが転げる様にして退いたのと同時に、魔力によって生まれた旋風が盗賊達を襲った。

 旋風によって盗賊達が視界を失っている間に彼等の死角に回り込み、鞘に収めた剣と杖で彼等を気絶させることで勝負は決した。
 その場は安全になったと見て取って、駆け寄るレイに振り返りながら、ユウは決まりの悪いといった様子で表情に影を落とした。
「どうしたの、ユウ?」
「なんか、こっちが悪者みたいだ…」
 もともと、王宮から宝を盗み出し、冒険者たちをも困らせているという点では間違いなく悪党はあちらなのだろうが、 此方を傷付けないようにと気を配っていたらしい相手に対して、それを利用するような方法で足止めし、止めを刺したのだから良心が無理は無い。 おまけにユウは、ロマリア王やユイの頼みで盗賊退治に参加したのであって、彼等が実際に悪事を働いているところを見たことも、聞いたことも無かったのだから尚更だ。
 とはいえ、過ぎたことを悔んでいてもこの場では何の意味もない。
「そうだ、姉さん――」
 再び剣を引き抜きユイの元へ向かおうとしたユウをエルが制した。
「貴方達は此処にいてください。」
 エルは二人に対してそう告げると、落ち着いた様子でユイの元へと歩み寄り始めた。
「でも、」
「大丈夫。僕に考えがありますから。それに、」
 エルは振り返り直も向かおうとするユウにこの場には似つかわしくない微笑みを浮かべた。
「あまり貴方を危険な目にあわせると、僕の方が怒られてしまいますしね。」
 あの人はあれで、貴方のことをとても大切に思っていますから。心中でそう続けると、エルは正面に向き直り笑みを消し去った。
(…上手くいくと良いのですが。)
 エルは気配を殺して慎重に前へと進みながら、小さく詠唱を唱え始めた。


 ギィン――
 剣と戦斧がぶつかり合って火花を散らす。
 ユイは舌打ちし、無理に戦斧の重い一撃に耐えようとせず後退した。
「そんなんじゃ到底俺には勝てねえぜ。どうするつもりだオルテガの娘よ。」
「様子見よ。…あんたこそ、さっさと本気を出せばどうなのよ…」
「まったく、可愛げのねえガキだぜ。」
「人様を困らせるしか脳の無いおじさまに言われたくは無いわね。」
 此方の様子を見ながら態と嫌味な言葉を投げてくるカンダタに口先だけは余裕ぶって返すが内心はそう穏やかではない。
(くそっ!速さなら勝っているはずなのに、どうして全部防がれる…!)
 この思考も行動も、何度繰り返したか解らない。動きを読まれているからだと、答えはとうの昔に出ているのだが其れを認めると次に打つ手が無くなってしまう。 打開策も考えてはいるのだが、力では敵うわけがない。相手に読まれないような動きをすることなど此処で突然出来るはずもなく、読まれても追い付けないような速さで動くというのも現在のユイの脚力では不可能な話である。 ならば遠距離から呪文を主体にして攻めるかという考えもあるが、残念ながらユイは決定的なダメージを与えられるような強力な呪文を覚えていない。
 勝てない・・・意識の端で冷静な自分が客観的にそう分析するが、ユイは直ぐにそんな思考を撥ね退けた。
(負けるもんですか、絶対に!)
 と、意地になってカンダタに向かい行くユイの視界の端にエルの姿が映った。
 ユイはカンダタを通して向こう側に映った彼の姿を一瞬半ば無意識のうちに凝視して、その彼の唇が小さく言葉を紡いでいるのを見て取ると、瞬時に彼の意図を読み取った。
 直に視線をカンダタへと戻したユイは、そのままカンダタへと突進し、素早く数度打ち込むとカンダタが戦斧を薙ぐ力を利用して大きく後退しつつ手を翳した。
「メラ!!」
 言葉と共に小さな火球がユイの手より放たれた。

 カンダタは突如として放たれた魔法に一瞬目を見開いたが、直に落ち着いた様子に戻り、余裕の笑みと共に戦斧で火球を払い除けた。
「はん!この程度か!?」
 次いで飛び掛かったユイの攻撃も易々と受け止めるカンダタに、ユイはこれまでと同様に一旦退くかのように見せかけて再び攻撃を仕掛けた。
「まだよ!」
 ユイが叫びカンダタが二撃目を受け止めようとした瞬間、
「――ピオリム!」
 隙を衝いて回り込んだエルの呪文が発動した。
「何!?」
「油断しすぎなのよ、貴方!」
 エルの唱えた加速の呪文によって速さの増したユイは、すかさず攻撃の手を強め、相手に休む間を与えぬようにして攻めた。
 攻撃は全て戦斧によって防がれるが、それでも元々ユイより素早さで劣っていたカンダタは、とうとう攻める間を無くしたようで、 防戦一方を迫られたうえに、少しずつ後ろへと追い詰められていった。

 ドンッと音を立てて、カンダタの背が壁に着いた。それと同時にユイはさっと得物をカンダタへと突き付ける。
「やるじゃねえか、オルテガの娘…」
 流石に厳しかったのか荒い息を上げながらカンダタは口を開いた。
「ユイよ。その呼ばれ方…好きじゃないわ。」
 オルテガの娘。そう呼ばれた瞬間ユイは表情を強張らせ、一拍の間をおいてそう返した。 カンダタはその変化に気付いてか気付かずかにやりと口の端を釣り上げ、ユイの言葉を完全に無視したかの様子で告げる。
「だが、お前もオルテガに似て詰めが甘いな。」
「なんっ――!!」
 カンダタの様子にユイが表情を険しくするが時既に遅し。ガラガラと音を立てカンダタの背後の壁が崩れ去った。
「カンダタ!!」
「あばよ、オルテガの娘に息子!しょうがないから盗んだ宝は返してやるよ。尤も、鍵の方はとっくに売り捌いちまったがな!!」
 カンダタは虚空へと身を投げながらそう叫び、やがて懐から何かを取り出しきらりと一筋の光を放ち消えていった。  










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  ロマリア編後一話で終わります。長かった・・・
  カンダタは最後、キメラの翼を使っている設定なのですが、解ります、かね(汗)








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