第21話−活気に満ちる町






 アッサラーム―イシス領に属し、大陸の東部と西部の中継点であるこの街は昼と夜の二つの顔を持っている。
 昼は他の町と殆ど変わらないのだが、アッサラームにある娯楽施設の殆どが夜に店を開けるため、夜になるとアッサラームは中心部を中心にとてもにぎやかな町になる。
 ユイもこの町で娯楽を楽しむ旅人の一人だった。
「約束よ。サティ。この勝負であたしが勝ったら船であたしをバハラタまで乗せていく。」
「あたいが勝ったらあんたのツテであたいらがダーマの蔵書を拝めるように手回しをしてもらう。」
 サティという長い金髪の女性とそんな会話を交わしながらカードを捨てたり取ったりと手は忙しく動かしている。
 その動作を何度か繰り返した後二人は顔を見合わせた。
「勝負は一回。負けてから勝負を無効にするなんて事は無しよ。」
「もちろん。女に二言はないよ。そっちこそ後でもう一回とかいうんじゃないよ。」
 バッと二人は持ち札をテーブルの上に差し出した。
 ユイの側にあるのは剣、盾、スライムのマークの付いた7のカードが三枚と盾、王冠マークの3が二枚。サティの側には盾、王冠、盾、剣、スライムのそれぞれ3、4、5、6、7が並んでいる。
「ふふっ。どうやらわたしの勝ちの様ねサティ。」
「……そうだね。」
 フルハウスとストレート。二人の行っていたポーカーの勝負はユイの勝利で幕を下ろした。
「それで、いつ出発なんだい?」
「まだ決まってないわ。」
「なんだいそりゃぁ…」
 ユイの言葉にサティは呆れた顔をしながらポケットから赤いバンダナを取り出した。
「早いとこ決めてくれよ。あたいらにもいろいろあるんだからね。」
「わかってるわよ。まぁ多分二、三週もすればいけると思うわ。」
「なにか用事でもあるのかい?」
「そうじゃないけどね…」
 ユイはそう言って頬杖をついた。
「多分もうすぐ、弟が来るのよ。」
「弟って…アリアハンの勇者かい?そういや会って来たんだって?」
 サティは頭にバンダナを巻きながらユイを見た。
「そういえばアイツらは一緒にいたのかい?」
「あなたの知り合いのお二人さんならちゃんと――」
「ユイさん!こんな時間まで何をしているのですか!!」
「サティ、お前今夜は船に戻るんじゃなかったのか?!」
 突然現れた相棒たちにユイとサティはばつが悪そうに顔を見合わせ席を立った。





  4.人の集う町



 ユウたちがロマリアから一週間ほどかけてアッサラームに着いた時には既に日は沈み辺りは薄暗くなっていたが、それとは対称的に町の中は活気に満ちていた。
「うわ…すごい人。」
 あまりの人の多さに、ユウがこれまでの旅の疲れも忘れ感嘆の声を漏らした。そんなユウを横目にティルはやや不安げな様子で呟く。
「宿…とれるかなぁ…」
「?…宿屋ならたくさんあるじゃない。」
「いろんな宿屋があるんだよ。ちゃんと安全なとこを選ばないと大変なことになる。」
 ティルが嘆息を吐きながら呟いた。アリアハンに来る以前はこのアッサラームに滞在していたこともあるという彼女たちはこの町の治安についても詳しい。そんな彼女が言うからにはそれは本当のことなのだろう。
 それを聞いたユウとレイは辺りをきょろきょろと見回す。町の入り口付近であるこの辺りでも少なくとも五、六軒の宿屋を見つけることが出来る。
「選ぶっていっても…こんなにあるのにどうやって選ぶのよ…?」
 ティルは暫く考えるそぶりを見せてユウを見た。
「とりあえず、私たちがよく行ってた所に行ってみる?ちょっと値段が高いけど信用はできる。」
「えーと…うん。」
 こういった時はその場になれた人間に任せるのが妥当だろうと判断し、ユウは頷いた。 


 ティルの案内でたどり着いた宿屋はアッサラームの中心部に程近い場所にあった。ティルの言ったとおり他の町で今までに泊まってきた宿屋に比べれば少々値段が高いがそれでも宿の設備も整っているし朝、夕二食付きの値段としてはまあまあ妥当な値段であった。
「はぁ。久しぶりにベッドで寝られるよ…あれ?」
 ユウは荷物を置くとベッドに座り込み、隣を見てシキがごそごそと必要最低限の荷物を小さな鞄に移し替えている事に気がついた。
「シキ。どこか行くの?」
「あぁ。」
 シキは荷物をまとめ終え、立ち上がりながら答えた。
「ギルドに顔を出してくる。」
「ギルドって…冒険者ギルド?」
 聞き覚えのある言葉にユウは再び問いを発した。シキは扉を開けようとしていた手を止めユウの方に向き直った。
「盗賊ギルドだよ。」
「盗賊ギルド…」
 ユウは無意識のうちにシキの言葉を反芻していた。そう言った名を出されると改めてシキが盗賊稼業を縄張りとしていることを実感する。
「朝までには戻る。」
 シキはそれだけ告げると部屋を出た。

 その後、ユウは暫しの休息を置き荷物の整理を終わらせ宿の一階にある食堂に向かった。
 席を見回せば、席に着いたティルとレイがこちらに向かって手招きをしているのが見えた。
「ティル、レイ。ごめん待った?」
「全然。今来たところだよ。」
「シキはどうしたの?」
 レイが見当たらないもう一人の存在を探しながら訊ねた。
「シキは、えーと…」
 シキは盗賊ギルドに行くと言っていたのだが、こんなところでその名を出していいのかと思い、ユウは視線を泳がせた。
 そんなユウの変わりに、長年シキと行動を共にしているティルが答えた。
「シキのことだから、ギルドに行ったんでしょ。」
「うん。」
「ギルド…? 冒険者ギルドのこと?」
 シキの行き先を知らないレイが奇しくも先程のユウと同じように尋ねた。
「盗賊ギルドだよ。」
 ティルは先程のシキと一字一句違わぬ物言いであっさりと答えた。


 アッサラームの中心街の大通りから人目に付きにくい脇道に入り少し歩いたところに盗賊ギルドはある。
 シキがその扉をくぐったのは宿を出てから一時間ほど後の事だった。
 ギルドの内部はアリアハンに在る冒険者ギルドと同様に酒場のようなつくりになっていた。
 そのような造りをしているのは、ルイーダーの酒場のような冒険者達の娯楽目的だけが理由ではない。
 盗賊達の仕事探しや情報交換などを目的としているこのギルドでは、その性質上ある程度までの犯罪は黙認される。 実際に何かしらの罪で追われる身の者が訪れることも少なくない。そんな者達が集まるこのギルドには何かしらカモフラージュが必要なのだ。
 シキはそんな血の気の盛んな盗賊たちが騒ぎ合う酒場の中央を無言で横切り、店内の一番奥にある一つのテーブルへと向い、そこに座っていた濃い茶色の髪の薄手のコートを着た青年の向かいの席に腰を下ろした。
 青年は向かいに座ったシキの顔を見るや否やニッと笑みを浮かべた。
「よお。久しぶりだな、シキ。」
「ああ。」
「よく俺がここに居るって分かったな。」
 青年はシキのそっけない態度を気にすることもなく会話を続けた。
「別に、街で少し聞いてきただけだ。」
 本来、彼等が泊まっている宿屋から、宿と同様に町の中心付近に位置する盗賊ギルドまではほんの十分程度の時間しか要しない。
 シキはこの一時間ほどの間、街の中を回ってある程度の情報を集めてきていたのだ。
「どうやったらその少しの聞き込みとやらで少数で隠密にこの街に入った海賊の情報を得られるんだか…まあうちの頭も似たようなもんだが…」
 実はこの青年、世界的に有名な海賊団の副頭をしていて名はリュイアスという。
「どうも。それで、何でこの街に来てるんだ?」
 そんな大物の青年にシキは臆することなく尋ねた。
 サマンオサ大陸の南部地方に拠点を置く彼等が何の用もなくアッサラームに来ることなど殆どないのだ。
「いや、今回は殆ど私用だよ。サティのやつのな。」
 サティとはその海賊団の頭の名である。
「珍しいな。」
「ああ。ここのところ毎日街に遊びにでてるよ。相手はお前も知ってるやつだ。」
「俺が知ってるやつ?」
 その表現にシキは眉を寄せた。この町で活動する盗賊達にはそれなりに知り合いもいるが、彼らの中で海賊の頭を務めるサティと親しい者がいるという話は聞いたことが無い。
「ああ。」
 リュイアスはそこで言葉を切り、シキの背後を盗み見ながらニヤリと笑った。
「あたしよ。」
「…っ!」
 突然の背後からの声にシキは驚き勢い良く振り返った。すると声の主はしてやったりと言わんばかりに口の端を釣り上げ勝ち誇った微笑を浮かべた。
「どうやら今回は気付かなかったようね。いくら慣れた場所とはいえ油断大敵しすぎじゃないかしら?」
 冗談めかしてそう告げながら手早く空席へと腰を下ろす彼女とはつい先日王家の宝を盗み出した盗賊を追って共闘したばかりである。
「久しぶりね。シキ君。元気だったかしら?」
「なんであんたが盗賊ギルドにいるんだよ…」
 シキは背後にいる人物の正体を確信し、どっと疲れた様子で呟いた。

 ユイ=ディクト。勇者オルテガの娘にしてユウの姉。盗賊カンダタを追っているはずの彼女は、悪びれることなく堂々と盗賊ギルドに居座っていた。




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  ドラクエ3にポーカーはありませんのであしからず。フルハウスが出せるユイさんが羨ましい・・・
  殆どシキの独断場です…








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