第22話−盗賊ギルド






 夜の街を歩きながら、ティルは深々と溜息を吐いた。その後ろにはユウとレイが並んでいる。
「やっぱ、止めといた方がいいと思うんだけど…」
「なによ、今更になって。」
「…私はいいけどね。レイやユウにとってはあまり良い思いをする所じゃないと思うよ。」
 三人は、夕食を済ませたあとシキを追い盗賊ギルドへ向かっていた。食事が終わった直後、突然レイが言い出したのだ。
 初めのうちはユウもティルも反対していたのだが結局レイに押されてユウが折れた。
 そして、三人の中で唯一ギルドの場所を知っているティルはむきになったレイの「教えてくれないのなら自分で探す。」という言葉に、絶対にギルドの場所を他の人に教えないことを条件に渋々ながら承諾したのだった。
「えっ、こんな道に入るの?」
 ティルが曲がった人気のない脇道を見、レイは思わず訊ね返した。
「盗賊ギルドだからね。目立つ場所には置けないよ。」
 そう言ってさっと曲がるティルを追い、ユウとレイはその道に入っていった。
 そこは夜でも昼間のように明るい中央通りとは対称的に、月や星の光でさえも殆ど届かないほどに暗かった。

 ほどなくして、ティルはある一軒の酒場に入った。恐らくは此処が盗賊ギルドなのだろう。ユウとレイはティルに続き扉をくぐり内部を見渡した。 外見通り酒場のような印象の、それなりに広い室内には満席とは言わないまでもそれに近いほどの人が集まっていて、彼らの全てが盗賊かと思うとユウは内心ギョッとした。
 酒を酌み交わしながら世間話でもしているような雰囲気の人々を見て、一般のものには一目で盗賊だと知ることは出来ないだろうことを考えると、酒場という名目が良いカモフラージュになっているのだということを理解する。
「シキは?」
 レイは暫くの間周りを見回していたが、ふと思い出したようにティルに訊ねた。ティルは視界に写る範囲にシキがいないことを確認して答えた。
「多分、一番奥だと思う。」
「この奥に行くの…?」
 レイは小さく前方を示して訊ねた。その指の先には各々席について色々と話し込んでいる盗賊たちがいる。
 大抵の者は仲良く酒を酌み交わしたりしているがなかには喧騒をしているものもいる。当たり前だが奥の席に行くための通路が設けられているわけではないため、奥に行くにはここを横切らなければならない。
「来たいって言ったのはレイだからね。」
「…わかったわよ。」
 そう言われて、レイは渋々ながら足を前に出した。

「ようティル!久しぶりだね。」
 外からではわからないが中に入ると意外に広いギルドの内部の中ほどを過ぎた辺りで、突如背後から半男口調の女性の声がかかった。
「サティ!!」
 ティルはその声を聞くとパッと振り返り声の主に向かって笑いかけた。
「えーと…誰?」
「知り合いみたいね。」
 近づき親しそうに話し始めたティルとサティと呼ばれた女性にユウは気まずそうに訊ねるが、楽しげに話し始めた二人にはまるで聞こえていないようだ。 代わりにレイがぽつりと呟き隣に並ぶと、ユウとレイはそのまま暫くティル達二人が話し終えるのをその場に立ち尽くして待つこととなった。

「悪かったね。いきなり話し込んじゃって。」
 サティと呼ばれた女性は器用に人々を躱し早足に前に進みながら顔半分だけ振り返りユウの方を見た。
「えっ、いや別に…」
「あたいはサティ。海賊団『灯』の頭をやっているものだよ。」
 うろたえるユウを尻目に長いウェーブのかかった金色の髪をいじりながらサティはさらりと言った。
「…海賊…?」
 レイが怪訝な顔付きで訊ね返した。海賊という言葉に良い印象を持っていないのだろうその表情には警戒の意が浮かんでいる。
「安心しなよ。海賊って言ってもあたいらは義賊だからね。悪い奴からしか取りゃしないよ。」
「……カンダタには随分と迷惑を掛けられたわよ。彼も義賊を名乗っているようだけど。」
「…まぁ、人様に迷惑かけてることがあるのは否定しないけどね。」
 毒づくレイにサティは悪びれもせず肩のあたりで手をひらひらと振った。
「あっ、僕は――」
「知ってるよ。」
「――えっ?」
 レイとサティの様子を見てユウが話を変える意味も兼ねて自己紹介しようとしたのをサティは途中で遮った。
「二人とも知ってる。ユウとレイってんだろ。」
「えっと…どうして…」
「直にわかるさ。」
 悪戯に笑いながら言うサティに、ティルも含め三人は不思議そうに顔を見合わせた。

 結局、相手が此方の名を知っている理由は明かされぬままで、沈黙を気まずく思ったユウは別の話題を切り出した。
「え〜と…海賊のお頭さんが一人で来てるんですか??」
「まさか。此処には相棒と一緒に来てるんだよ。シキの奴が来てるんなら、多分シキと一緒にいると思うよ。――あぁ、ほらあそこだ。」
 いつの間にかすぐ傍まで来ていたらしくサティの指した先に、壁際の席に座るシキの姿を見ることが出来た。 その向かいに茶髪のコートを着た青年が座っているのが見て取れた。
「――あれ?」
 その様子を見てユウが声を不思議そうに漏らした。その視線は茶髪の青年の隣の席―ここからだと青年の影になっていてよく見ることが出来ない―に向いていた。
「ユウ?どうかした??」
 ティルは疑問符を浮かべ立ち止まったユウに不思議そうに声をかけた。
「…あれ…姉さん…??」
「「えっ!?」」
 ティルとレイがユウに視線の先を見ると、ちょうどこちらに気付いたようで少し椅子から身を乗り出してこちらにぶんぶんと手を振るユイの姿を見つけることが出来た。
 ユウたちはバッとサティに視線をそろえた。サティは頭の後ろで手を組んで、ニッと笑って言った
「だから言っただろ。知ってるって。」




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