「…なんでお前等まで集まって来てるんだよ……」 「あはは…ごめん、つい…」 シキの溜息まじりの悪態に対してティルは乾いた笑いで返した。 「サティさん。姉さんと知り合いだったの!?」 そんな二人を尻目にユウはサティに訊ねた。 「ああ。まぁね。それとこいつがあたいの相棒さ。リュイアスってんだ。」 「リューでいい。宜しくな。」 「あっ、ユウです。よろしくお願いします。」 互いに挨拶を済ませたのを見計らってユイが口を開いた。 「それにしてもユウ、遅かったじゃない。もう二、三日遅かったら待っててあげれなかったかも知れなかったわよ。」 そもそもアッサラームで落ち合おう等という約束をした覚えはなかったがそれはそれ。ユウは無駄な横槍は入れずに姉のペースに合わせて返した。 「姉さん暫くここにいるんじゃなかったっけ?」 「あのねぇユウ。あたしは少しのんびりしてカンダタの居場所がわかったら出発するって言ったのよ。」 「それじゃあカンダタがどこに行ったか分かったの?」 「ええ。」 ユイは自信ありげに頷いた。 「バハラタの方に行ったことは分かったんだけど…ただ、少し問題があってね。」 「問題??」 「ええ。アッサラームのすぐ傍に高い山脈が見えたでしょ。」 バハラタとは大陸東部にある聖なる川があることで名の知れた町の名前である。大陸東部に行くには船を使い大陸沿岸を回るかアッサラームの東にある山脈を越えなければならない。しかしその山脈は高く険しい岩山が連なって出来ているため登ろうとするものは皆無に等しい。 そのためその山脈には冒険者や行商人が利用するためのトンネルが掘られているのだが・・・ 「あそこから東に行くためのトンネルが落石で防がれちゃって陸路での移動が出来なくなっちゃったのよ。」 「えっ!!」 ユウは思わず声を上げた。次の目的地はまだ未定ではあるが、南西にあるイシスに向かうよりは大陸東部に向かったほうが多くの町を周ることが出来るので、できれば東側に周りたいと皆で話し合っていたのだった。 「でもユイさん、さっき出発するって言ってませんでした?カンダタさんがバハラタに行ったなら貴女の目的地も東側なんでしょう?」 ティルの問いにユイは得意げに片目を閉じて見せた。 「それでサティ達にお願いして協力してもらったのよ。」 「……お願い…ねぇ…」 「あら、乗ってきたのは貴女よ。いまさらなしなんて言わせないわ。」 「…わかってるよ。女に二言はないさ。」 ユウはそんな二人を横目で見ながら訊ねた。 「…姉さん、何したの……」 「何よその目は。ちょっと賭けをしただけよ。お互いに良い条件出し合ってね。」 ユイは悪びれもせずそう言った。 「それで、お前らはどうするんだ?」 暫し続いた姉弟の言い合いの後、頬杖をついて視線を別の方向へ向けてリュイアスが訊ねた。 「まぁ、どうするって言ってもロマリアに戻るのでなければここでトンネルの開通を待つか、イシスに行くか。だけどな。」 「――っ」 『イシス』という名が出た瞬間、レイは一瞬表情を固くした。その表情を隠すように少し俯いて視線をそらせる。 その様子に気付く様子もなくサティが口を開いた。 「まあ、いつ開通するか分からないもん待ってるよりはイシスにでも行って時間をつぶして来るほうが妥当だろうね。 ……そういえばユイに聞いたがあんたたち、ポルトガに行こうとしてたんだって。」 「えっ?はっ、はい。」 「なら関所には寄って来たのかい?」 「行ったけどだめだった。封印か結界かなにかの魔法かかかってて開けられないんだって。」 ティルが答えれば、ユイが悪戯な笑みを浮かべてあなたたちがこじ開けてやればよかったのに。と呟く。 おそらくは冗談で言っているのだろうが彼女が言うと本気でそう言っているような気がしてならない。 「姉さん…それって……」 「冗談に決まってるじゃない。」 「……姉さん…」 呆れた様子のユウを見て楽しげに笑うユイを横目に、サティはシキの方に向き直った。 「それで本題なんだけどね、シキ。魔法の鍵を探してきたらどうだい?」 『魔法の鍵』と言う言葉にシキが僅かに眉を顰めた。 「……世界中、探しても見つかるかどうか解らないものを砂漠の中で探せと…?無理言うな。」 「…まぁ、話は最後まで聞いて行きなよ。信憑性は低いかもしれないけど、聞いていっても損はないよ。」 机の上で腕を組んで笑みを浮かべるサティに、シキはスッと目を細めた。 「…シキとティルはともかくとしてあんたたちは魔法の鍵を知ってるのかい?」 投げかけられた問いにユウのみが首を横に振った。 その様子を見てユイは軽く溜息を吐き、少し俯いて呟くように言った。 「魔法の鍵っていうのはね、魔法の力を使って閉じられた扉を開けてしまう鍵のことよ。 旅の扉と同じように遥か昔に神々が造ったとも三大賢者一族のものが造ったとも言われているけど詳細は分かっていないわ。 …まぁその鍵さえあればロマリア―ポルトガ間の関所の鍵も開けられるんでしょうね。――どうしたのよみんな。ぽかんとして。」 説明を終え顔を上げ、ユイは初めて全員が呆気にとられたという様子で自分の方を見ていることに気がついたのだ。 「さすがといのうか意外だというのか…」 「随分と博識なんですね。」 「……同感。」 驚く一同にユイはケロッとして答えた。 「こんなこと常識でしょ。」 「「「…絶対違う」」」 「そうかしら…ダーマで誰でも閲覧できる蔵書の中にあるんだけど…」 「……もういいよ…続けようか…」 サティは諦めたように深いため息を吐いた。 「その魔法の鍵なんだけどね、今まで世界中の何処にあるのか分からずにほぼ伝説と化してて、盗賊連中なんかがその鍵欲しさにいろんなところを探して回ってるような代物なんだよ。」 とサティは続ける。しかし未だに、鍵本体どころかその在り処に関する詳しい資料すら見つかっていないのだという。 「その魔法の鍵がどうかしたんですか?」 「…まあね。」 サティは真剣な顔つきでユウを見据えた。 「最近この辺りの盗賊たちを中心に噂が流れているんだ。」 「噂?」 「そう。『魔法の鍵がイシスの国のどこかにある』ってね。」 「……出所は?」 シキが腕を組み考える素振りを見せて訊ねた。 「あたいとリューで調べてみたけどさっぱり。魔法の鍵に興味ある他の盗賊達も躍起になって調べてるみたいだけどそっちも全然駄目らしい。 この手の噂が流れることは初めてじゃないけど、流れ出した時期もあって結構本気になって探してるやつもいるみたいだ。」 「時期?」 「ああ。ちょうどアリアハンの勇者、つまりあんた達が旅立った頃と重なってるんだよこれが。」 それが意図的なものか偶然なのかは現時点では全く解らないけれど。 「どうだい?探してみる価値はありそうだろ。」 膝の上で拳を作り、唇を引き結んでレイはサティの話を聞いていた。 (どうして…!?) ともすれば声に出して叫んでしまいそうなその言葉を懸命に押し留め思考を繰り広げる。 魔法の鍵の所在は、その性質上悪用されることを防ぐため、イシスの国のものの中でもほんの一部の者たちにしか知らされていない筈のものであり、 今までイシスが保有しているという話が外に漏れたことはなかったはずのものである。それが盗賊達の間でこうも大々的に取り沙汰されているのは何故だろう。それに、ユウの旅立ちとほぼ同じという時期も妙に引っ掛かる。 (…っ!まさか、) 一つの仮説に行きあたり、レイはすぐさまそれを否定した。 (……いくらなんでも、そんなことはしないわよね。) なんとか自分を納得させると目の前の会話に集中しようと意識を現実に引き戻す。 「それで、どうするユウ。」 「どうするって…急に言われても……」 戸惑うユウとシキとを交互に見、サティは悪戯な笑みを浮かべた。 「行ってやんなよ。そいつは見ての通りの鉄面皮だから表情からは読みづらいがこの手の話題には興味心身なんだから。」 「…おい」 「確かに。意外と盗賊精神身に付いてるよな。」 シキは嬉々として話すサティを止めようとどすを利かせた声を発したが、追い打ちを掛ける様にして挙げられたリュイアスの言葉に押し黙る。 「そうなの?」 「…別に」 「そうだよ。」 ふいと顔を逸らしたシキの変わりに満面の笑みを浮かべたティルが大きく頷いた。 「じゃあ、」 この流れは非常に拙い。なんとかイシス行きを阻止したいレイであったが流れを変える大した理由も思いつかず、逆に不自然に会話を遮り疑心を持たれることを恐れて身を固くする。 「行ってみようかな。」 止めとなるその一言にレイは血の気が引いていくような感覚を味わった。 back 1st top next |