「ユウ。お帰り〜。」 「ただいま…何してるの?ティル、シキ??」 床に腰掛け向かい合う二人の間にはなにやら数枚の札が置いてある。二人の手にも其々数枚の札が持たれており、どうやら何かゲームをしているようだ。 「なにって…暇つぶしに、ポーカー。」 「暇なら付いて来ればよかったのに。」 そう言って半ば呆れた様子で、レイはティルの持ち札を覗き見る。 「……ティル。」 「なに?」 「…素人目に見ても、こんなに揃うことは殆どないと思うのだけど…」 「…普通にやってたらね。」 それはつまり普通にやっていない、不正を行っているということだろうか。 と不審の目を向けるレイにティルは悪びれもせずに返した。 「『目には目を、歯には歯を。』って私たちの師匠はいつもそう言ってた。 師匠たちがしょっちゅういかさまするもんだから、私たちも真似するようになっちゃって。 …あ、勿論シキとか師匠たち相手の時だけだよ。」 師匠というのは武闘や盗賊技術の師匠のことだろうか。ユウとレイは思わず目を合わせる。 「とんでもないことを教える師匠なのね。」 「……教えることよりやることの方がとんでもなかったけどな。」 「「??」」 二人はシキに向き直りどういうことなのか訊ねようとして、やめた。普段とあまり変わっていないはずのその表情が、随分と疲れてげんなりとしているように見えたからだ。 ティルとシキは互いに目を合わせ同時にて札を相手に見せる。 はぁ、っとティルの口から溜息を付く声が漏れた。 「…47敗目。」 「って、そんなにやってたの!!?」 驚く二人に向かってティルは首を横に振って見せ、悔しそうにシキを睨みつけながら言う。 「これは通算。今日は3試合ほどしただけ。」 そう言いながら手元の札を手際よく片付けていく。 「へえ。よくするの?ポーカー。」 もう一度、ティルは首を横に振った。 「今日だけだよ。普段はポーカーじゃない。」 「??じゃあ普段は何を……」 「何をって、色々。修行だったり賭け事だったり、ただの喧嘩だったり…」 後は何があったかなと考え込むティルの向かいでシキが小さく息を吐き、ユウとレイを見上げた。 「ユウ、レイ。」 向き直った二人にシキは扉の方を指して見せる。 「…客を連れてきたんじゃないのか?」 「……あ」 完全に蚊帳の外に立たされていたレオは、漸く自分の存在を思い出してくれた彼等に対して軽く片手を上げながら苦笑を見せた。 王からの申し出を説明すると、ティルはユウたち三人を見渡し、確認の意で尋ね返す。 「つまりこの人…レオさんと一緒にバハラタまで行って交易の約束を取り付けて来いってこと?」 「うん。」 ユウが頷くのを見て取って、ティルは今度はレオへと視線を向ける。 「東の大陸の町の創造者がなんでこんな所にいるんですか?」 先程のレイと全く同様の質問にレオは思わず苦笑して見せた。 「町を造っていた人間が他の土地に来てはいけない。なんて決まりはないだろうが…。」 小さく溜息をこぼし、レオは真面目な表情で口を開いた。 「オレは元々、あの大陸に住む先住民の一族でな。商売なんかとは無縁の地で育っていたんだがな、物好きなオレのじーちゃんが町を造りたい。なんて言い出したんだ。――」 「なんでもそれはじーちゃんの昔からの夢だったらしくて周りのもんがいくら止めても聞こうとはしなかったんだ。 今まで抑えてきたものがその年になって爆発しちまったんだろうな。 その時のじーちゃんの勢いは凄いもんで協力者がいなくても一人で行ってしまいそうな様子だった。 それでオレがじーちゃんの手伝いとして付いて行ったのがあの町の始まりだった。 当時のオレはじーちゃんから多少の商人としての心構えとかは教わってはいたんだが町を造るのにはどうすればいいのかなんてことは全然知らなくて、 ポルトガとかイシスとかいろんな国に行っていろいろなことを学びながら町造りを進めていったんだ。」 「――それから三年、町の方もでっかくなったしもうオレがいなくても大丈夫だろうと判断してな。今度はオレがでっかい夢をかなえてみようと思って半年ほど前に町を出たんだ。」 「でっかい夢??」 四人全員が疑問符を浮かべる。一から町を作る以上の大きな夢とは一体何だろうか。レオはここぞとばかりに悪戯じみた笑みを浮かべ誇らしげに答える。 「ちょっくらダーマに。高みを目指そうと思って。」 「高みって……まさか…!?」 「ああ。夢はでっかく。賢者になってみようと思って。」 絶句する四人の前で、レオはちょっとそこらに出掛けて来るといったような軽い口調で宣言した。 「……それで、ダーマに修行に行くはずのお前がどうしてバハラタに交易に行くことになったんだ?」 逸早く我に返ったシキが四人を代表してレオに質問を重ねた。 「ポルトガ王にはいろいろと世話になったからさ、一応挨拶にと思って城を訪ねたら頼まれたんだよ。 どっちみちバハラタへはダーマへ向かう途中に通るわけだし断る理由もなかったからな。 …で、どうするんだ?膳は急げで今から出発するか??」 今から、などと問われユウは窓から空を見上げが、既に日は西に傾きかけていて今からルーラの魔法でアッサラームまで移動したとしてもそれ以上進むことは難しいだろう。 恐らく、レオの方もそれを理解したうえで確認のために尋ねたに違いない。 「…明日の朝でお願いします。」 「リョーカイ。んじゃあ明日朝までは自由ってことで。」 勝手に話しにけりをつけさっさと部屋を出るレオ。流石は町の創造主。それだけ大それた偉業を成す為には、この程度の強引さは必要だということだろうか。 「…いっちゃった。」 「まぁ、いいんじゃない?どっちみち今日はもうすることもないんだし。」 言うや否や、ティルはひょいと立ちあがった。 「私も修行に行ってくるよ。シキ、付き合って。」 「ああ。」 ティルとシキも部屋を出、残されたのはユウとレイの二人だけ。 「…私も、買い出しに行ってこようかしら。」 「僕も武器屋に行ってこようかな。」 二人は順々に呟き、顔を見合わせ微笑した。 「結局、私たちも思い思いに行動してるんだから、人のこと言えないわよね。」 「あはは、そうだね。」 暫く後、部屋の中には誰の姿もなかった。 宿を出た後レオは、城壁付近に広がる露店街に赴きぶらぶらと目的もなく数多くある店を順に周っていた。 空いた時間を見つけてはそうして店を見て回るのは、町造りを始めて以来身に付いた彼の癖だ。 そうして暫くの間時間を潰し、あたりが薄暗くなった頃、宿に戻ろうと踵を返そうとしたときだった。 (ん?) 町の外側から此方へと向かってくる二人分の人影。何やら見覚えのある金髪と銀髪に、レオは足を止めた。 (確か、ティルとシキって言ったよな。) 彼等は先程出会ったばかりの勇者一行の一員である。 ジッとそちらを見つめていると、向こうもその視線に気付いたようで此方に視線を向けてくる。 レオはニッとそちらに笑みを向けると二人へと歩み寄った。 「よう、お二人さん。こんなところで何してるんだ?デート?」 「えっ??」 「そんなんじゃない。」 レオの言葉にティルは驚いた、というより何故そうなるのか分からない。といった様子で首を傾け、シキが平然とそれを否定する。 (なんだ、つまんね〜の。からかってやろうと思ったのに…) 「それじゃあ何してたんだ?」 内心では若干落胆した様子でしかしそれを表に出すことはなくレオは問い続ける。 「修行ですけど。」 「修行って…町の外でやってたのか!?」 「ああ。」 なんともなしに頷く二人の様子にレオは声を荒げた。 「おいおい、外には魔物が出るんだぞ。何かあったらどうするつもりだ!」 ティルはキョトンとしてレオを見上げていたがやがて笑顔を見せて言った。 「あれくらいの魔物なら、二人でも大丈夫ですよ。」 「…あっそ。」 半ば呆れた様子で返答を返すレオの脳内で、ティル、シキ>ユウ、レイの不等式が出来上がりつつあった。 性格的な立場で見ても間違いなさそうな気がしてくる。それでいいのかと思いつつ、シキが口を開いたためレオはその思考を中断した。 「じゃあ、俺たちはこれで。」 「ああ。気を付けてな。」 手を振るレオに、ティルが意味ありげな視線を送った。 数歩先まで進んだところからくるりと体を反転させ、再び此方へと向かってくるティルにレオは不思議そうに首を傾けた。 「あの、一つ聞いてもいいですか?」 目前で立ち止まり、先程までとは打って変わって若干遠慮気味な様子でティルが訊ねた。 「??…なに?」 「北東の大陸の先住民の一族。って言ってましたよね。」 「ああ。」 「それって、スーの一族ですか?」 「!!」 レオの表情に動揺の色が走った。まさかこんな場所にそんなことを知っているものがいるとは思ってもいなかったのだ。 「なんで、そんなこと知って…」 別に隠しているわけではないがあんな辺境の地を訪れるものはまずいない。 一族の住む集落を出てからその名を聞いたことなど殆ど無い。それをこんなところで、旅人の少女から聞かされるとは思ってもいなかったのだ。 こちらを見上げるティルの瞳と目を合わせ、レオはハッとして目を見開いた。 「お前…金の――」 「ティル!」 レオの言葉を遮るようにしてティルを呼ぶ声が響いた。 「あっ…シキ。」 「早くしろ。帰るぞ。」 「わかった。すぐ行くから。」 離れたところから自分を呼ぶシキの声にティルはすぐさま返答を返した。 「それじゃあレオさん。失礼します!」 「あ、ああ。気を付けてな。」 呆気にとられて彼女を見送ったあと、レオは我に返ると顎に手をやり考え込んだ。思い返すのは先程見た金色の瞳。 (あいつら…金の眼の一族…?だとしたらなんでこんな所に…) back 1st top next 因みにティルは負け数だけ言ってますが同じくらいの勝率とそれ以上の引き分けがあります。 |