それから、これ以上の立ち話はなんだからということで、ラデュシュの案内のもとである一軒の家を訪れたユウたちはその宅の居間で茶をすする人物を見遣り目を丸くした。 「ユウ!?」 「…姉さん?」 突然の再開にユウとユイが姉弟揃って声を上げた。そんな二人の様子に、奥からくすっと忍び笑う声が聞こえ、ユウはそこに佇む女性を見た。 「お帰りなさい。皆さんの分も用意出来たから、座って頂戴。夕御飯ももう少ししたら用意するわね。」 銀髪の女性でその顔つきはティルに酷似している。恐らく後十年ほど年を重ねたティルが隣に並べば瓜二つになるのではないだろうかと思えた。 その女性の紡ぐ声を聞き、ユウははっと手を打った。 「もしかして、メリカさん?」 「えぇ。そうよ。」 あっさりと頷くメリカ。フードの下にはこの顔が隠れていたのかと思いつつ、ならばとユウはティルを見た。 「…てことはティルの――」 「うん。おかーさん。」 「素性を隠すような真似をしてごめんなさい。さっきはそれを説明する時間も惜しかったものだから…」 申し訳なさそうに手を合わせるメリカにラデュシュが歩み寄った。 「…その割には、邪魔な客の相手を俺に任せて君は優雅にお茶会か?」 「あら、貴方ならどんな相手だろうとなんてことないと思ったのだけど、私の思い込みだったのかしら?」 嫌味ったらしく溜息混じりに吐き捨てられたラデュシュの問い掛けに、メリカはいっそ清々しいほどに屈託のない笑みを浮かべて問い返した。 そのまま二人は見詰め合い、不穏な空気に一同が揃って総毛立った所で、ラデュシュとメリカは揃って笑い声を上げた。 「ただいま、メリカ。」 「おかえりなさい、ラデュシュ。」 何が起こったのか解らぬ一同の前で、ラデュシュはメリカを抱きしめ額に口づけを送った。 と、そこまでして気が済んだのか、ラデュシュとメリカは頬を赤らめ視線を逸らしたユウやレイ達へと向き直る。 「全員が揃ったようなので改めて。俺の名はラデュシュ=ディーア=テドン。君たちがこの町を訪れるようダーマの大神官様に言付けを頼んだもので、周囲からはテドンの賢者とも呼ばれている。」 ラデュシュはユイとエルを見遣って一礼した。そして今度はユウとレイへと向き直り、メリカを示した。 「彼女はメリカ。俺の妻だ。」 時が止まった。 ユウとレイ、それにユイとエルの四人は目を見開き、ラデュシュとメリカを凝視した。そしてもう一度ラデュシュの言葉を反芻する。 『彼女はメリカ。俺の妻だ。』 つまり、二人は夫婦だということになる。ラデュシュはシキの父親で、メリカはティルの母親で、その二人が夫婦だという事はつまり―― 四人の視線が一斉にティルとシキに移された。 「「「兄妹!?」」」 異口同音に叫ばれた対するティルとシキはというと、 「あれ?言ってなかったっけ?」 「…少なくとも俺は言ってない。」 きょとんとしてそんな風に掛け合いを見せる。そんな一同の様子を楽しむかのように、背後からラデュシュがぽつりと付け加えた。 「因みに、シキの方が数分ほどお兄ちゃんだぞ。」 「…ということは――」 「「双子!?」」 屋内に再び叫び声が響き渡った。 因みに、この時ユウたちは知る由もないのだが、ラデュシュはユウが「もしかして『シキの』」お父さん?」と聞いた時点でこの事態を予測しており、 敢えてその場で真実を語らず、この反応を期待していたのであった。 「さて、本題に入ろうか。」 全員を席へと促し、「なんでもっと早く言わなかったのよ!」とか「だって妹だって知れたら悔しいし…」とか「ちゃんとした挨拶・自己紹介も出来ないとは親として情けない。」とか「子どもの前でいちゃつくな、鬱陶しい。」とかと言い合いながら、 メリカの作った夕食を食し、一段落したところでラデュシュがそう切り出した。 「貴方にとっての本題となると、貴方がユウたちを呼び出した理由――オーブのことかしら。」 そんなラデュシュの科白にいち早く反応したのはユイで、ラデュシュを見据えてそう尋ねた。 「嗚呼。オーブについてはどこまで知っている?」 「ルビス教の伝承に伝わる宝珠だということ以外は何も。」 「ダーマの大神官様にはテドンの一族に口伝で伝わる事柄だと言われたわ。」 ラデュシュの問い掛けに、ユウとレイは口々に告げた。 「そうか。ならば何故我らがオーブを君たちに託そうとしているのかということも知らないな。」 「魔王の住むネクロゴンド城へと向かう為にはオーブが必要だということは聞きました。」 ラデュシュは、どう話せばいいものか。と暫く思案する様子を見せたが、やがて口を開いた。 「オーブとは伝説の不死鳥ラーミアの魂の事だ。」 「不死鳥ラーミア?」 疑問符を飛ばすユウにメリカが付け足す。 「遥か昔、神話の時代に現れたという伝説の神鳥のことよ。 不死鳥ラーミアは聖なる光の力をその身に纏い、正しき心を持ったものだけをその背に乗せ、どんな険しい山よりも高く、大空を駆けると伝えられているわ。」 メリカの説明にユイが「成程ね。」と相槌を打った。 「つまり、何らかの方法でオーブの中に眠る不死鳥の魂を復活させて、不死鳥にのって空から魔王城に突入するって訳ね。」 「まあ、簡単に言うとそう言うことだな。」 ラデュシュは頷き、更に言葉を続けた。 「ラーミアは精霊ルビスの力によって誕生し、ルビスが新たな世界―アレフガルドを創られた際、多くの民をその背に乗せアレフガルドへと運んだと云われている。」 「アレフガルドは種族間の抗争が激しくなった事を憂いたルビス様が争いの無い所へと弱き民を避難させ平和な世界を築くために創られたと云われているわ。 アレフガルドを創生し、弱き民をアレフガルドへと移したルビス様は、自身もアレフガルドへと渡った。多くの民をアレフガルドへと導いた後、不死鳥ラーミアはその役目を終え、 此処から南にあるレイアムランドのラーミアを祀る祠で眠りに着いたの。」 「眠りに着いたラーミアの魂は6つに分かれ、世界各地に散らばった。 一つは人へ。一つは妖精へ。一つは竜へ。一つは魔族へ。そして残りの2つのうち、一つは四王を祀る神殿へ。残りの一つは世界中を巡っている。 6つのラーミアの魂をレイアムランドの祠の金の冠の台座に捧げた時、不死鳥ラーミアは蘇り、君たちは大空を駆ける翼を手に入れるというわけだ。」 ラデュシュは一拍の間を置いてユウを見遣った。 「俺が君たちを此処に呼んだのは、今のオーブの伝承を伝えるため。そして人の元へ辿り着いた不死鳥の魂の一つ、我らが一族の宝、グリーンオーブを託すためだ。」 そこまで言い終えると、ラデュシュは口を閉ざした。それは彼が伝えたかった話は全て終わったということで、それを察したレイが遠慮気味に片手を上げた。 「つまり、オーブを集めて不死鳥ラーミアを復活させろってことなのよね。あの、他のオーブに関しては何か解らないの?」 「そうだな。知っている物もあるし、知らない物もある。一つは四王を祀る神殿で守られるブルーオーブ。」 「四王を祀るっていうのはランシールの大神殿のことよね?」 博識のユイが場所を言い当てラデュシュがそれに頷いた。皆の視線がユイに集まると、ユイは面倒そうに頭を抱えた。 「そうか、イシスは太陽神の信仰だもんね。アリアハンにもそんな伝承は伝わってないし…エルは教会にいたなら知ってるんじゃないの?」 「知りませんでした。すいません…」 「否、四王に関しては人の間にはあまり伝わっていない伝承だよ。君こそよく知っていたな。」 知識不足を恥じるエルにラデュシュが助け船を出した。 「ダーマの蔵書で読んだのよ。四王っていうのはそれぞれの種族の頂点に立つ王様達の事なんだけど…」 感心するラデュシュに返しつつ、ユイは四王に関する説明を行おうとして、止めた。 「詳しい事は面倒臭いからランシールに行った時にでも専門家の神官様に訊いて頂戴。」 「そんな適当な…」 「今はオーブの話に集中。一気に全部の知識を吸収しようなんて、逆に非効率なのよ。」 尤もらしい言い分で話を終わらせたユイにユウは恨みがましい視線を送るがユイが動じる様子は無い。 「まあ、ランシールは此処から南東の方角の大陸だから、他に当てが無いのなら次の行き先にすると良いさ。 それとシキ。ランシールに立ち寄った際にはユーラリース殿によろしく伝えておいてくれ。」 「……」 ユーラリースという名が出た途端、シキが苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。珍しく全面的に嫌悪するような表情にティルを除いた一同が目を瞬く。 「ユーラリースって誰?」 「シキの師匠。ほら、オスト師匠がユーラって呼んでた人の事だよ。」 「あぁ…ランシールの出身なのね。だからあの部屋にランシールの聖書の原本とか置いてあった訳?」 「まあ、そんなとこかな。」 レイとティルが囁き合う隣で、シキは無理矢理吐き捨てるようにして声を上げた。 「………会えたらな。」 「うん、宜しく頼む。」 back 1st top next 前半中休み的にティルシキ一番の秘密をば(笑) ユウたちは二人は幼馴染か何かだと思い込んでたので人間一度思い込むとなかなか解らないよねっていう話です。 ラデュシュとメリカの描写とか過去編挟んだりで気付かれるかなぁとか思ったりもしたんですが 此処まで気付かなかったという方がいらっしゃったら此方としてはしてやったりといった感じです。 後半はオーブの話とか。捏造万歳です。 |