戦禍での邂逅






 そこは、戦場の後であった。
 ほんの四半刻ほど前まで人間と魔族とが戦っていたその地には、今はその戦いにより無残に散っていったものたちの骸ばかりが転がっていた。
 奇跡的に生き残ったものたちのなかで、早急に救護が必要なものたちは呪文を使って国へと戻され、そうでないものたちは骸の中を懸命に生存者がいないか探し求めていた。
 そこは、現世でありながら地獄を連想させるような場所であった。


 そんな地獄の片隅に、不釣り合いな光を見つけた。


 子どもであった。
 崩れかかった壁に背を預けぐったりと座り込んだ子どもは、その身には不相応な長剣を抱え込み硬く目を閉ざしていた。 子どもの傍にはやはり物言わぬ躯となったものたちが転がっている。


 目を瞑り微動だにしない子どもの様子に、周りの躯たちと同様に死んでいるのかと疑念に思い足を向けた。
 子どもまであと十歩ほど。そこからもう一歩足を踏み出そうとした刹那、閉じられていた子どもの瞳が瞬時に開かれ此方を捉えた。


「近付くな。」
 ギンと此方を睨みつけた子どもの低い声が響いた。その視線の強さと凛とした声に思わず立ち止まる。


 まるで獣のようだ。己の領域を侵したものを本能のままに排除する獰猛な獣。 ならば周りに転がる骸たちは獣に牙を衝き立てようとして返り討ちにあったということだろうか。
 小さな体にとんだ牙を隠し持っていたものだ。あるいは己もこれ以上この子どもの領域を侵そうものなら物言わぬ骸に仲間入りを果たすのだろうか。


 既に体を動かすだけの力は残っていないのだろう。体を投げ出したままその場から微動だにしようともしない子どものその瞳だけが、 この常闇の地獄の中で強い意志を持ち燦々と輝いていた。





「死ぬのか?」
 その場に静止したまま子どもに尋ねた。
「お前には関係の無いことだ。」
 子どもはその瞳で此方を睨み上げ、そう言った。
「違いない。」
 くっと自嘲の笑みを浮かべて子どもの言葉に同意した。この戦いで誰が死のうと生きようと、自分には全く関係の無い話なのだ。


 だが、同時に惜しいと思った。
 この燦々とした瞳の輝きを此処で消してしまうのは勿体ない。そう思った。


 それ以上子どもの領域を侵そうとはせず、その代りとばかりに口の中で小さく力のある言葉を紡いだ。
 淡い光が子どもを包むと、子どもは初めて驚いたように表情を変えた。


「生きろよ。」
 気まぐれでそう言い放つ。
「生きて――――」
 紡いだ言葉に子どもが息を飲むのが伝わった。


 遥か後方から人の声が聞こえる。誰かを呼ぶ声だ。この子どもを探しでもしているのだろうか。
 そんなことを考えながら、再び力ある言葉を紡ぎ、俺は地獄を後にした。







  戦禍での邂逅










〜あとがき〜
 何処かの戦場にて。登場人物の名前は出していませんがセルディとウェルドの何度目かの出会いです。 こんな感じの出会いを何度か繰り返したことによりウェルドのセルディに対する不信感は会うごとに増強していくことになります…
 唐突に閃いた内容を文章にしてみました。   









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