出発1






 中級学校の卒業式はアリアハンの年中行事の一つだった。
 成人式を兼ねたそれは学校ではなく王城で、保護者、在校生をはじめ沢山の人々に見守られる中で行われ、国王直々に式辞が述べられその学年の代表者に卒業証書が手渡される。
 式の終わったあと、親しい友達同士で集まって泣いたり笑ったりしている同級生たちを尻目に、リクは卒業証書を抱えてすぐさま帰路についた。




  アリアハン ―出発―






「お母さん、お爺ちゃん、ウェル!!」
 この家に住む者たちの名を呼びながらリクは元気よく家の扉を開け放った。
「リクお帰りなさい。」
「ただいまお母さん。お爺ちゃんとウェルは?」
「お爺ちゃんは卒業式を見に行ったのよ。ゆっくり帰ってくるんじゃないかしら。ウェル君は上にいるわ。」
「わかった。ありがとう!」
 ぱたぱたと音を立てて階段を上るリクの姿を彼女の母は愛おしそうに見ていたが彼女の姿が見えなくなるころにはその表情は寂しそうな笑みへと変わっていた。


 部屋の外側から聞こえる足音にウェルドは窓の外側に向けていた視線を部屋の中に戻した。
 バタンッ
「ウェル!!」
 一拍置いて部屋のドアが開け放ち入ってきた少女にウェルドは微笑んだ。
「リク。帰ってくるのはもうちょっと遅いっておばさんが言ってたけど…」
「えへへ〜急いで帰ってきちゃった。」
 そう言ってリクは一枚の紙をウェルドに見せるために前に出した。
「じゃん。卒業証書。これであたし旅に出られるよ!」
「そんなの前からもらえるの分かってたじゃないか。それに学校をでさえすればそれが無くても旅に出れるんだろ。」
「うん。でもうれしくって。それにウェルは着いて来てくれるんでしょ。」
「ああ。もちろん。」
 それを聞いてリクは嬉しそうに笑顔を見せた。
「だから早く報告しておこうと思って。」


「あれ?」
 リクはふと窓が開いていることに気がついた。
「ウェル。また空を見てたの?」
「ああ。」
 ウェルド再び空を見上げた。リクもそれを真似て空を見上げる。
「ふ〜ん。ずっと空を見ててよく飽きないね。」
「ああ。多分一生見てても飽きないと思うよ。」


 リクはそっと視線を動かしウェルドの横顔を見、この少年と初めて出合った時のことを思い出した。
『太陽を…空を見てたんだ。』
 金色に輝く瞳で自分を見上げてそう言ったこの少年に、リクはどう返答すればよいのか分からなかった。
 結局どうすれば良いのか分からないまま少年の隣に座り込んで暫く同じように空を見上げていたリクに、彼はポツリと呟いたのだ。
『…探してるんだ。……ここに居るって、聞いたから。』
『だれを…?』
『……勇者。』


 その言葉を聞いてリクは少年を自分の家に招きいれた。
 何故そうしたのかは自分でも分からなかったが彼女の直感がそうするべきだと告げていたのだ。


 それから一月。ウェルドは毎日一度は空を見上げている。
 リクは一度何故そんなに空ばかり見ているのかと聞いたことがある。
 その時ウェルドは自分がいたところではあまり見えなかったから。と返してきたが、リクには空があまり見えないところなどと言われても想像することは出来なかった。
 それでもそれ以上ウェルドに聞こうとしないのは彼がそう答えた時に、どこか悲しそうな表情をしていたからである。
 リクはその表情を見てから彼にどこから来たのか等と聞くことをしなくなった。


「リク?」
 ようやくリクがこちらを見ていることに気がついて、不思議そうに声をかけるウェルドに、リクはハッとした。
「どうかしたのか?」
「えっ?ううん。なんでもない。」
 そう答え、未だ不思議そうにしているウェルドの手を引き、彼の部屋を訪ねたもう一つの理由を告げた。
「ウェル。剣の練習つきあってよ。」
「へっ?あっ…あぁ。」
「やった〜。出発!」
 答えを聞くや否やすぐさま歩き出すリクにウェルドは声を上げた。
「ちょっとまて。まだ剣を持ってない……イタッ…そんなに腕を引っ張るな!!」
「あっごめん。」
 途端、引っ張っていた腕を放されたウェルドは今度は前のめりに倒れこんだ。



















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