リクに絡んできた少年たちを退けた青銀の髪の青年は、呆然と突っ立っているリクのもとへと歩を向けた。 青年はゆっくりとした足取りで歩を進め、彼女の前で足を止めた。 「あっ、ありがとうございました。」 「気にしなくて良い。俺が勝手にしたことだからな。」 リクは背の高い青年の顔を見上げ目を合わせた。 ――ぞくり―― 彼の漆黒の瞳と目が合った瞬間、リクは背筋に冷たいものが走るような感覚に見まわれた。 (まっくろ…やみいろの、目……すいこまれそう…。) 「俺はセルディ。お前は?」 セルディの言葉にリクははっと現実に引き戻された。 (あたし、何を考えてるの…闇色の目なんて初対面の人に失礼じゃない。) 「あっあたしはリクです。…あの、セルディさんはアリアハンの人じゃありませんよね?」 リクはセルディの青銀の髪を見ながら訊ねる。ウェルドの金髪同様、青銀の髪というのも珍しい。 「ああ。俺は旅人だからな。アリアハンにはたまたま立ち寄ったんだ。…それから敬語はいらないぜ。普通に話してくれて構わない。」 「はぁ…」 (たまたまって…) 現在アリアハンは鎖国中のはずである。 完全に国交を閉ざしているわけではないので貿易船や他国の政府の船などが入ってくることはあるが、 わざわざ旅人をここまで乗せてくれる船というのも少ないだろう。 となれば余程の大金を使って交渉するか密航するかといった方法しかない。 この青年がそんな大金を持っているとは思えないのでリクはもう一つの可能性について聞いてみることにした。 「…まさか…密航してきたんですか…?」 「まあな。入っちまえば取締りなんかは全然厳しくないからな。」 セルディはさも当たり前というように、あっさりと答えた。 「でも、それならなんでここに来たんですか?…その、冒険者登録したようには見えませんし…」 「ああ。そろそろ出て行こうと思ったんだけどな、出航しそうな船が見つからなくて良い案はないかと思って立ち寄ったんだ。」 「…だったら――」 突如セルディの目がすっと細められたのに気付いて、リクは言葉を切った。 「随分と、物騒なあいさつじゃないか。」 セルディの視線の先を追い、リクは目を見開いた。 「ウェル!!」 セルディの背後に立つウェルドは、殺気立った鋭い視線をセルディに向け、剣の切先を彼の首へと向けていた。 「リクから離れろ!!」 「その前にこいつをどけてもらいたいね。」 口元に余裕の笑みを浮かべ隙なく外套の下に右手を滑り込ませ、振り返りざまにその腕を振り上げた。 ――キイィン―― 甲高い金属音が響きウェルドの剣とセルディが手にした短剣が弾きあった。 「随分なご挨拶じゃないか、ウェルド。三年振りの再会だってのに。」 「ふざけるな!!お前とは――」 ふと、ウェルドの雰囲気が変わった。一瞬のうちに殺気が掻き消え目が驚きに見開かれる。 「――三年ぶり…だと…?」 「ああ。久しぶりだな。」 「え〜と…」 二人の様子に取り残されていたリクが声を上げる。 「…知り合いなの…ウェル、セルディ…?」 「まあな。」 「………ああ。」 セルディは先程までと変わらぬ様子で、ウェルドは不本意そうに顔をしかめて答えた。 当初の目的も達成したし、騒ぎを大きくしたくなかったのでリクたちはルイーダーに一言入れて早々にルイーダーの酒場を後にした。 街道を歩きながらリクがウェルドに詰め寄った。 「…で、知り合いなのにどうしていきなり剣を突きつけたりするの、ウェル。」 「…知り合いにもいろいろあるんだよ。」 「それよりリク。」 ウェルドに詰め寄るリクをセルディが遮った。 「なに??」 「さっきなに言おうとしてたんだ?」 「ああ。」 リクは思い出した。というようにポンっと手を合わせた。 「あたしたちも大陸から出ようと思ってたところだから、あてがないなら一緒に来ない?ウェルと知り合いならちょうどいいよね。」 「なっ!!」 「いいのか?」 ウェルドの露骨な態度を無視してセルディはリクに訪ね返した。 「うん。セルディがいいなら。」 「俺の意見は聞いてくれないのかよ…」 リクの満面の笑みを浮かべる横でウェルドは深い溜息を吐いた。 ウェルドはもう一度溜息を吐き、リクに向き直った。 「リク。これだけは聞いてくれないか?」 「うん?」 「すぐに追いつくから城壁のところまで先に行ってて。こいつと二人で話がしたい。」 「ええ!!なんで!!」 今度はリクが驚いて反論の声を上げた。 「ああ。それには俺も賛成。頼むリク。」 「うぅ…はやくきてよ。」 二人ともに言われてしまいリクは異論を唱えることが出来ず、渋々一人、歩き始めた。 リクが十分に離れると、ウェルドはセルディを睨み上げた。 「何をしに来た。セルディ。」 「べつになにも。」 「そんなわけ…」 「ほんとだぜ。」 セルディは先程までとは違う真剣な表情でウェルドを見据えた。 「別にお前の言う勇者に何かしにきたわけじゃない。安心して構わないぜ。信じるかどうかはお前の勝手だけどな。」 「……。」 「ああ、それから…」 セルディはウェルドの胸倉を掴んで引き寄せた。背の低いウェルドは殆ど体の浮いたような状態になる。 「なっ!!」 驚くウェルドの耳元で小さな声で囁く。 「お前、まだあいつになにも言ってないんだろう。ばらされたくなかったら俺のことも言うんじゃないぞ。 …まあ、なにも言わなくても俺を見て直感でなにか感じたようだったけどな。」 セルディは掴んでいた手を解き、先程とはうってかわった様子でウェルドに笑いかけた。 「なんにせよしばらくの間よろしくな。行こう。あんまり待たせるとまずいし。」 「……わかった。」 ウェルドは不本意ながら頷いた。 BACK NEXT 2nd top |