出発4






 アリアハン城下町から大陸北部の小さな農村レーベまでは、通る道にもよるが短くて半日、長くて丸一日程度歩けば着く距離である。
 とは言え最短ルートは運が良ければ半日でレーベの村に到着することが出来るが魔物の多い森の中を通らなければならないため危険なため、その道を選ぶものは殆どいない。
 また、海岸線に沿って半円を描くようにして北へと進む最長ルートでは、魔物との遭遇率は低いが丸一日歩き続けるわけにはいかないので野宿が必要である。 しなくてもすむ野宿をわざわざしようという人間は少ないのでこの道も殆ど選ばれることはない。
 必然的にレーベへと向かう旅人はぎりぎり野宿の必要がなく魔物との遭遇もそれほど多くない大陸西部に大きく広がる草原の中を通る中距離ルートを使うものが多くなるのだが・・・









「ふわぁ。気持ち良いねぇ〜。ウェル、セルディ。」
 アリアハンの町を出て二日目の朝、リク、ウェルド、セルディの三人は海岸線に沿ってのんびりとレーベの村を目指していた。
 魔物との遭遇率は低いが遠回りになるこの道を選んだのはパーティのリーダーであるリクだが、彼女が安全性を考えてこの道を選んだのかというと、
「ん〜。きらきらしててきれいだね〜。」
と海面を眺めて感嘆の声を上げているリクがそのようなことを考えてこの道を選んだのかどうか怪しいところである。


「あっ、ウェル!今あそこで魚が跳ねたよ!」
 飽きず海面を眺めて目を輝かせるリクのやや後ろを歩きながらウェルドは盛大な溜息を漏らした。
「…リク、景色を眺めるのはいいけどそんなにゆっくり歩いてると今日もレーベの村に着けなくなる。」
「むぅ…。」
 ウェルドの物言いにリクは子供のように頬を膨らませて見せた。
「ウェルだってい〜っつも空ばっかり見てるくせに。」
「俺は移動中にまで見てない!」
「いいじゃない、ちょっとくらい。」
「ちょっとじゃないからこうやって注意してるんだろ。」
「なによ!ウェルの意地悪!」
「意地悪で結構。」


 それまで後方から二人を傍観していたセルディは止まらぬ言い合いに呆れ顔で額を押さえた。
「…リク。ウェルドは野宿続きだと疲れがたまるだろうから早く村へ行って休もうと言っているんだ。」
 リクはキョトンとしてセルディに向き直った。
「べつにあたし疲れてないけど?」
「それはリクが昨日寝ずの番をやっていないからさ。」
 リクはそう言われ昨夜のことを思い出す。確かに自分は一晩中気持ちよく眠っていたような気がする。
「……セルディがしてくれたの?」
「俺とウェルドでしたんだよ。」
 その言葉にリクはすまなさそうに肩を落とした。
「…ごめん、二人とも…わかった。残念だけど今は歩くのに集中することにする。」


 それからの旅は順調に進んでいった。夕方ごろまでは。
 ようやくレーベの村の周囲を囲む低い柵が見えてきたところだった。暗くなった海にウェルドがそれを見つけた。
「?…なあ、あれって船じゃないか?」
 そう言って指した先をリクとセルディも注意深く見つめる。
 そこには船があった。近隣から漁に出た船にしてはやや大きく、他の島や大陸から海を越えて渡ってくるにはあまりにも小さい一隻の船が。
 その船は不自然に斜めに傾いている。
「あの船…沈みかけてるんじゃないのか!?」
「それだけじゃないぜ。」
 声を荒げたウェルドとは反対に、冷静な物腰でセルディがそれに続ける。しかし声とは裏腹にセルディも冷や汗を掻き目を見開いている。
「まだ…人が、乗ってる。」


 初めに動いたのはリクだった。彼女は一気に砂浜まで駆け下り浜に荷物を放り投げた。一瞬遅れてウェルドとセルディもそれに続く。
 リクは、焦りながらも冷静に船との距離を窺う。近くもないが遠くもない。船が沈みかかっているのだから当然自分の足など届かないだろう。だがこの位の距離ならぎりぎり泳げなくもない。
「ウェルはここにいて!!」
 そう言い放ってリクは海の中へと駆け入った。


 リクは海の中を必死になって船へと向かっていった。
 初めは浅くて走ることも可能だったが、海の深さが腰の辺りまで上がってきた時にリクはすぐに走ることを止め泳ぎ始めた。
 もともと運動は得意な方である。泳ぐことも例外ではない。
 しかし、それでもなかなか船との距離は埋まらない。船はやはりウェルドの言った様に沈みかかっているようで先程よりも若干海上に浮かび上がっている範囲が狭まっているようだ。


(間に合わない!)
 リクがそう思い顔を歪めた。
「ピオリム!!」
「えっ?」
 叫び声と共に自身の体が軽くなったような感覚にリクは驚き振り返った。同時に泳ぎを止めてしまう。
「リク!休むな!!」
 リクのやや後ろで立ち止まって手を翳した状態でセルディが叱責の声をあげた。リクはハッとして視線を戻し泳ぎを再開した。
 先程より速く体を動かすことが出来る。セルディの呪文のためだろう。


 ようやくリクがその船まで辿り着いた時には、船は前半分しか残っていなかった。
 リクは急いでその船に飛び乗りそこに横たわる人影を発見した。長い黒髪に変わった服を着た少女で完全に気を失っているようだ。
「しっかりして!!」
 リクはそう呼びかけながら少女を抱きかかえ他に人が乗っていないかを確認しすぐさま船を飛び降りた。
「リク!!」
 追いついてきたセルディと合流する。
「セルディ!このこ気を失ってるの!!」
 セルディはその少女の様子を一瞥し、ウェルドの待つ砂浜へと視線を移した。
「とりあえず陸に上がろう。ここではどうにも出来ない。」
「うん。」
 リクは頷き来た道を先程よりは多少落ち着いた様子で引き返し始めた。



















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