出発6






 レーベの村の夜、リクは夜風に当たりに宿の外に出た。 宿の前から少し歩いて前を見ると視線の先に月の光を反射させ輝く金色が見えた。
 普段は無造作に一つに纏めている背中ほどまである金髪を下ろし、池のほとりに座り込むその人影。あれは――
(――ウェル)
 リクは一瞬声をかけるのを躊躇った。
 今、目の前にいる彼の姿が、夜の闇に飲まれて消えてしまうような・・・
そんな不思議な感覚がリクの脳裏をよぎったのだ・・・


 自分の背後に人の気配を感じてウェルドは後ろを振り向いた。
「…リクか。」
 一瞬だけ目を合わせ仲間の少女の名を呼んで、ウェルドは再び暗い池へと視線をやった。 ――といっても特に何かを見ているわけではなく、池に写る月明かりをぼんやりと見つめているだけなのだが――


 ウェルドの顔を見、声を聴き、リクはほうっと息を吐いた。
 まだ先程の不安が消えたわけではないのだが、それでも本人の声を聴くと先程の感覚は気のせいだと思うことができた。
 リクはゆっくりとウェルドの隣へと足を進める。
 こつん。と足先に何か硬いものの当たった感覚にリクは不思議そうにして足元に視線をやった。
(何だろう…?)
 足先に触れたモノを拾い上げ首を傾ける。 それは月明かりを反射して金色に光る大きな丸いメダルのようなもので首から提げることの出来るように鎖が取り付けられている。 よく見ると何か絵のようなものが掘り込まれているのが見て取れる。
 掘りこまれたものを見ようと顔を近づけようとした時、リクの手の中からそれは忽然と姿を消した。


「あっ……」
 リクから取り上げるような形でそれを手にしたウェルドはハッとしてすまなさそうな表情をリクに見せた。
「それ、ウェルのものなの?」
 リクの問いにウェルドは頷く。
「ああ。とても大切なものなんだ。」









「ここだよ。」
 レーベの村から南東に3日ほど歩いたところにある泉の前でリクは立ち止まった。リク曰く、アリアハン大陸から出るための正規ルート。それが此処らしい。
 どういうことか分からずに疑問符を浮かべるウェルドとヤヨイの隣でセルディが一人、成る程な。と頷いた。
「『誘いの洞窟』か。封印されたって聞たけど?」
「うん。そういうことにされてるんだって。」
「どういうことだ?」
 二人の会話についていけずにウェルドが訊ねた。


「この泉の傍には洞窟の入り口があるんだけどな、その最深部に『旅に扉』というものがあるんだ。」
「たびの、とびら??」
「ああ。遠く離れた場所へと一瞬にして辿り着くことが出来る便利なものだ。」
 わけが解らず首を傾けるヤヨイにセルディは、
「まあ、いってみれば解るさ。」
といって片目を瞑って見せた。
「何年か前にアリアハンが鎖国に入ったときにね、この洞窟も封鎖されたことになっているの。 でも本当ははアリアハンから出ようとする人のために封鎖されずにそのままにしているんだって。」


「成る程。」
 ウェルドが納得したようなしていないような曖昧な表情で頷いた。
「それで、その旅の扉から何処に行けるんだ?」
「確か……」
 リクは暫らく視線を彷徨わせて考え込んでいたがやがて思い出したようにパッとウェルドに向き直った。
「ロマリア!中央大陸のロマリアだよ!!」





 若干ながら外からの光が差し込む地下一階から地下二階へと移動して、リクはそのあまりの暗さに目を丸くした。
「うわぁ…真っ暗。」
 周りの見えないその中で、少し移動しようと足を動かしたところで手を引かれ、強引に足を止められた。
「リク!!」
「ひゃあ!!…えっ?ウェル!?」
 困惑するリク様子を意にも介さずウェルドは言う。
「それ以上そっちへ行くな。落ちるぞ。」
「へっ??」
 リクが声を上げるのと後方でセルディが松明に火を灯したのはほぼ同時のことだった。


 明るくなった空間を見回し、リクはウェルドの言った言葉を理解した。
「うわぁ…」
 あと一歩分進んだあたりの床が忽然と消えている。確かにあのまま進んでいればその穴の中に落ちてしまっていただろう。
「…ありがとうウェル。」
 ようやく手を離したウェルドに向き直り礼を言う。
「でもウェル。よく気が付いたね、あんなに暗かったのに。」
「まあな。…暗いところには慣れてるから。」
「えっ?」
 途中で小さくなった声が聞き取れずにリクは聞き返した。
「なんでもない。」
 ウェルドはその言葉をもう一度言おうとはせずリクから視線を外した。


「リク。」
「なに?ヤヨイ。」
「ここには魔物が出るのでしょう?」
 リクは真剣な表情で頷く。
「うん。魔物達も旅の扉を使っているから大陸の強い魔物も出ることがあるって聞いたよ。」
「だったら早く行きましょう。こんな所に長居は無用です。」
「うん。そうだね。」


 リクは先程落ちそうになった穴を振り返った。通路を横切って出来た大きな穴は注意して見なければ他の場所とも同じように見えてしまう。
 続いて周囲に視線をやる。この場所以外にも通路のいたるところにこの穴は開いているようで。注意してみれば見える範囲でも数箇所、大小様々な穴が見て取れる。
「…戦う時は気を付けないとね。」
 ウェルドとセルディは注意して見ずともこの穴に気付くことが出来ているようで戦いの最中に落ちるなどというへまはしないだろう。 となれば掛かるのはリクかヤヨイだが後方から援護するヤヨイよりも前衛で動き回るリクの方があの穴に落ちてしまう可能性は高いだろう。


 魔物以外に注意しながら戦わなければならないという状況にリクは小さな不安を覚えた。
(…でも、なんとかなるよね。うん。)
 思考を変えて、明るい笑みを皆に向ける。
「行こう。みんな!!」


 新たな土地へと期待を膨らませながらリクは歩を進め始めた。  



















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