海へ3






「出航〜!」
 船員として借り受けた海賊達が掛け声を掛け合い動き回る様子を見ながらルディは大きく息を吸い込み吐き出した。
 漠然とした不安をかき消すようにルディは空を仰ぎ見た。
(大丈夫、絶対に。…父さんの果せなかった約束は、必ず俺が果すから…)









「ここにいたのか。」
 船尾からジッと外を眺めていたフィレはルディの声に振り返った。
「ルディさま。」
「『さま』って…」
 ルディは足を止め、思わず苦笑を浮かべてしまった。
「さま付けする必要なんてないよ。呼び捨てにしてくれた方がこっちとしては気が楽でいいし。」
「そうなのですか?」
 首肯するルディにフィレは微笑みを浮かべた。
「ではルディとお呼びすることにします。」
「ああ。」


「それでルディ。わたしになにか御用ですか?」
「用って程でもないんだけど…アリアハンに探してる人がいるって言ってただろ。」
「はい。」
「早くしないといなくなるかも知れないってのはどういうことなんだ?」
 いなくなる。というのは旅に出るという事なのだろうか。アリアハン大陸から旅立つものは年々減少していると聞く。 だとすればフィレの探している人というのは自分が会いに行こうとしているオルテガの娘なのかもしれないと、ルディはフィレの話を聞いた時から考えていたのだ。


「……旅をしている人なんです。」
「旅人?」
「はい。『探している。』というより『追っている。』という方が正しいのかもしれません。」
「どうしてアリアハンにいるって分かったんだ?」
 旅人がアリアハンに向かうなど滅多にないことだ。探している者がいるとしてもアリアハンに向かっただろうとはなかなか考え着かないだろう。
「分かるんです。彼が向かった場所が、私には分かる時があるのです。…詳しくは言えませんが…。」
「いいよ。無理して言わなくても。」
 申し訳なさげに目を伏せるフィレに、ルディはそれ以上追求しようとはしなかった。




「親睦を深めるのは大いに構わないんだけどさ。」
「そろそろあたしたちに気付いてくれないかい。」
 突如、背後から聞こえた聞き慣れた声に、ルディは勢い良く振り返った。
「なっ!!なんでお前らがここにいるんだ!!」
「まあ。貴女は先程の!」
 驚きに目を見開き此方を指差すルディとその隣で歓迎すると言わんばかりに胸の前で手を組むフィレを交互に見、アルジェとビズは思わず吹きだした。





「で、なんでお前らがここにいるんだよ。」
 場所を船室に移し、向かい側に座ったアルジェとビズにルディは極力抑えた様子で訊ねた。因みにフィレはこの場には参加せず先程と同じように外で景色を伺っている。
「お前こそ。俺一人で行く。なんて言われて素直に納得できると思ったのか。」
 余裕の笑みを浮かべてビズが訊ね返した。隣ではアルジェがうんうんと頷いている。
「…話を聞いたときから計画してたって事だな。」
「まぁね。あそこで頷いていればあんたは簡単に信じるだろう?後はビズにあんたが来る前にうちに来て隠れておいてもらって船に先回りしておいたわけさ。」
「あそこまで上手くいくとは思わなかったけどな。」
 バァンッ。ルディは思い切り手を机に叩き付けた。


「帰れ!」
「嫌だ。」
「無理やり返そうとしても無駄だよ。この船の海賊達があんたとあたし。どちらの言うことを聞くと思う?」
 声を荒げるルディにビズは平然と異を唱えさらにアルジェが追い討ちをかける。 傍から見てもルディの負けは明らかだったがルディはそれでもなんとか二人を言いくるめようとする。
「…だいたいアルジェ。海賊の仕事はどうするんだよ!?」
「他の連中に任せてきた。しばらく頼むって。」
「……ビズは。おじさんのことどうするつもりだよ。」
「国王には親父の知人がしようとしている町創りを手伝いに行くって申請してきた。ちゃんと許可は降りてるぜ。」


「…………」
 二人に言い負かされてとうとうルディが黙り込む。
「諦めなルディ。あたしら二人ともなにを言われても引くつもりはない。」
「……危険な旅になる…と思う。」
「ああ。」
「俺はお前らを巻き込みたくない。」
「お前が俺達を巻き込みたくないように俺達だってお前に危険な旅をさせたくないんだ。」
「……それでも…」
「ルディは昔から一人で全部抱え込もうとするからさ。たまにはあたしたちにも協力させてくれたって構わないだろ。 ルディがあたし達を心配するようにあたし達だってあんたのことが心配なんだ。」


「…分かったよ。」
 二人の物言いにとうとうルディが折れた。元より二対一では彼に勝ち目はなかったのだ。
「正直言うと結構不安だったんだ上手くいくのか。一人で行くなんて大見得切っておいてなんだけど…よろしく頼む二人とも。」
 ルディの本音を聞き、アルジェとビズはどちらからともなく笑みを浮かべた。
  「よっしゃ。まかせときな。」
「大事な親友の頼みだからね。頼まれてあげるよ。」
「無理はしないでくれよ。」
 苦笑を浮かべるルディに、二人は同時に答えた。
「ああ。」「わかってるって。」
 二人は一呼吸置いて、息をそろえて続けた。
「「ルディこそ。一人で無理はするなよ。」」


 船内に、三人の笑い声が響いたのは、その直後のことだった。
















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