海へ5






 船の船尾に腰を下ろしルディはジッと一振りの剣を見つめていた。
 自身の愛用しているその剣の刃を見つめ、ルディは軽く息を吐く。
「なにしてるんだよ、こんなところで。」
 突然かけられた声にゆっくりと振り返るり、そこにいた幼馴染の少年を一瞥する。
「お前が元気ないってフィレが心配してたぞ。…なにかあったのか?」
「別に…ただ……」
 隣に腰掛けるビズから再び視線を自身の剣へと向けてルディはポツリと呟いた。
「あんなところで父さんの名前を聞くことになるとは思わなかったからさ……」


『お主達はやがてネクロゴンドの地へと赴くことになるだろう。
  そしてかの地にて火の山を登りその火口でガイアの剣を掲げることで、道は切り開かれることじゃろう。』
『ガイアの剣はサイモンという男が持っているそうですよ。』


 早朝に発ったムオルの島で出会った予言者の老人と売る物が無いといっていた商人の男の言葉が脳裏に過ぎる。
(よく考えたらこの剣も父さんの形見なんだよな……)
「……まさかな。」
「えっ?」
「いや、なんでもない。」
(そういやフィレの奴、あの爺さんと何を話していたんだろう……。)








「あの、ルディ…」
 老人の予言を聞き終え皆の元へと戻ろうとして扉に手を掛けたルディを、後ろからフィレは呼び止めた。
「どうかしたのか…?」
「あの……」
 フィレは申し訳なさそうな表情で上目遣いに彼を見上げてこう言った。


「先に皆のもとまで戻っていてくれませんか??私はまだ、この方に聞いておきたいことがあるので……」
「なっ!」
 いくら小さな島だとはいえ彼女のような少女が夜に一人で歩くのは危ないのではないか。 そう思って反対しようとするルディの考えを予測していたかのようにフィレは絶妙なタイミングで口を開いた。
「私は大丈夫です!魔法の心得がありますから、なにかあればそれで対応することが出来ます!だからお願いします!!」


「……俺が聞いてたらいけない話なのか?」
 暫らくの沈黙のあと、普段から押しに弱いルディが観念して口を開いた。
「…ごめんなさい。」
 申し訳なさそうに頷くフィレを見て、ルディは一つ溜息を溢す。
「外で待ってるから、できるだけはやく済ませてくれよ。」
「えっ!?」
「心配だから、待ってる。」
 そう言って邸を出るルディにフィレは小さく礼の言葉を告げた。





 ルディが出て行ってからしばらく、フィレは予言者の老人に向き直ると声を発した。
「あの……」
「お前さんの知りたがっているのは、闇の者の行方かね?」
 老人の言葉にフィレは一瞬息を呑んだがすぐにハッとして頷いた。
「…それは儂に聞かずともそれについてはお前さんが一番よく知っていることであろう。
  お前さんに解らんのなら儂には彼の者の居場所など解らんよ。」


「そう…ですか。」
「じゃが――」
 落胆するフィレに、しかし老人はさらに言葉を続けた。
「光が動き出した以上、必ず闇も動くじゃろう。
 儂には彼の者の居場所は解らんがこれだけは分かる。お前さんはそう遠くない未来に彼の者と出会うこととなるじゃろう。」


「…そう遠くない未来に……そうですか、ありがとうございました。」
 フィレは嬉しそうな、それでいて悲しそうな微笑みを老人へ向け頭を下げた。
 老人は皺の濃い顔にあたたかい笑みを浮かべて頷いた。
「さあ、もう行きなされ。お連れさんが待っておるぞ。」
「はい。」
 フィレはもう一度老人に頭を下げると踵を返しその家を後にした。





 道の脇に腰を下ろしフィレを待っていたルディは、扉が開き中から待ち人が現れたのを認めて腰を上げた。
「もういいのか?」
「はい。」
 訊ねるルディにフィレは頷き彼の横に並ぶ。そうしてどちらともなくもと来た道を歩き始める。


「…ルディ」
 暫くの沈黙を破り、フィレは神妙な面持ちでルディへと声をかけた。
「アリアハンに付いた時、私の探し人がもうそこにいなかったとしたら…もう暫く、貴方たちと共に旅をさせてくれませんか?」
 その問いに、ルディは驚き軽く目を見開いた。


「俺はいいけど…フィレはそれでいいのか?」
 ルディとフィレの旅の目的は違う。もしも今回はたまたま目的地が一緒だったが ルディと共に行けばフィレはその探し人から遠ざかってしまうかもしれないのだ。
「はい。……それに貴方たちには――」
「えっ??」
「いえ、なんでもありません。」


 ルディに微笑みを返しフィレは星空を見上げる。沖合いは海が荒れ、天気も悪いと聞いているが此処では綺麗な星空を見ることが出来た。
 その星空を見上げながらフィレは先程の言葉の続きを心の中だけで発する。
(それに貴方たちには、いつか話す時が来る。そんな気がするんです。)





「こんな所にいたんですね。ルディ。ビズ。」
「フィレ。」
「アルジェがお二人のことを呼んでいましたよ。アリアハン大陸が見えてきたそうですよ。」
「本当か!!」
 嬉しそうに目を輝かせるビズにつられて二人もくすくすと笑みを浮かべる。
「嬉しそうだなビズ。」
「ああ。アリアハンにどんなものが売ってあるのか気になるからな。降りたら早速調査するぜ!!」
「それじゃあ、さっさとアルジェのところに行くか。準備もしないといけないからな。」
「ああ。」「はい。」
 同時に答えたビズとフィレと顔を見合わせて笑いあう。


(オルテガさんの娘さん、確かリクっていったよな。まだ旅立ってないといいんだけどな…)
「ルディ!!そんなところで物思いに耽ってないでさっさと来い!!」
「ああ。すぐ行くよ!」
 甲板から聞こえるアルジェの叫び声に返答を返して歩を早める。
 決してこの先の旅のことを楽観視しているわけではないけれど、彼等と一緒ならなんとかなりそうだ。とルディは思わず考える。


 世界の、国の平和を守るため、ルディは最初の一歩を踏み出した。
















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