漆黒4






 目の前にそびえ立つ塔を見上げリクは関心したように声を漏らした。
「ふわぁ…ここなの、セルディ?」
「ああ。シャンパーニの塔。 昔っから盗賊たちのアジトとして使われてるっていう物騒な塔だよ。」
「全然そう思っているようには見えませんが……ところで、」
 淡々というセルディに突っ込みつつヤヨイが訊ねた。
「この塔、どれくらいの高さがあるのですか?」
「ざっと6階。世界に誇れる高さだな。」
 セルディの言葉にリクは目を輝かせウェルドとヤヨイはげんなりとした様子を見せた。









――ザン――
 一撃で魔物を打ち負かしウェルドはその場で深い息を吐いた。
「ウェルすご〜い!」
 若干遅れてやって来たリクが歓声の声を上げる。
「ウェルってすごく強いよね。あたしなんて蟹に攻撃できないのに。」
 軍隊蟹、この地域に生息する魔物の一種で堅い甲羅と鋭い鋏を持っているため攻撃力と防御力が高い。
 リクは先日この軍隊蟹の甲羅に剣を阻まれ危うく殺させるところであったがそれを助けたのがウェルドであった。
「ねえ、どうやってそんなに強くなったの?」


 最年少のこの少年は魔法は使えないが肉弾戦においてはパーティ一の実力を誇っている。
 先日の一件以来リクは当面の目標を彼と、魔法においてパーティ一のセルディに追いつくことと定めている。


「ああ、うん…いろんな人に教わったりして、かな…」
「ふぅん。じゃあウェルはとっても良い先生に教わったんだね!」
 曖昧にぼかしたウェルドの答えに何の疑問を持つこともなくリクは心底感心した様子でそう言った。


「お〜い。リク、ウェルド。置いていくぞ〜。」
「うん。今行く! 行こう、ウェル!」


 シャンパーニの塔 一階。敵の本拠地といわれる場所に辿り着いてなお、一行は緊張感の欠片もなくのんびりと進んでいた。





 ゴッ、という音を立てて地に叩きつけられた魔物がまた一匹動かなくなった。
 魔物を叩き伏せたのはウェルドで、彼はこの塔に入ってから殆どの魔物を一人で片付けている。
(無茶するなぁ…)
 ただ無邪気に感心するリクとヤヨイの隣でセルディはそういった感想を抱く。
 これから指名手配された盗賊――それも大人数である恐れもある――との戦闘を控えているというのに ウェルドは明らかに全力、とはいわないまでもそれに近いほどの力を使っている。


 リクやヤヨイは知らないだろうがウェルドは普段 ――この間の山岳地帯での戦闘のような例外を除けば――自身とその仲間の実力を考えて無理の無いように戦っている。 それができないということは周りに信用できる仲間がいないときかもしくは何か焦りがあるときだ。
(前者はありえない。となると……)
 セルディは不自然でない程度に早足にウェルドに近づいていく。


「おい、大丈夫か。」
 セルディは隣に立つと同時にリクたちには聞こえないよう小さな声で耳打ちした。
「うる、さい…」
 返答はいつも通り。しかしいつもより息遣いが激しく顔色も若干青いように見える。
(…やっぱりか。)
 セルディは内心舌打した。予想していた通りとは言えこの状況は喜ばしくない。


 別に怪我を負っている訳ではないのだが気休め程度にはなるだろうとセルディはウェルドに手を翳した。
「ホイミ。」
 そこから漏れる神聖な光にウェルドは怪訝そうな表情を見せた。
「無理するな。サポートする。」
 この申し出にウェルドは一瞬遅れて目を逸らした。
「…いらない。」
 その反応も予想通りのものでセルディは若干頬を緩めた。


「盗賊たちと戦ってる間に倒れられたら困るからだよ。」
 わざとめんどくさそうに聞こえるように言い放ちセルディはウェルドから離れた。 一連の動作は気付かれないように行っていたが、流石にそろそろ不審に思われるだろうと見計らってのことだ。


「セルディ、ウェル。階段あったよ。」
「OK〜。次で4階だな。疲れてないか?」
 仕切られた部屋の中から顔を出し、中を指差すリクに微笑して訊ねる。
「全っ然大丈夫!二人は?」
「俺は大丈夫だぜ。」
「大丈夫だ。」
 平然と答えるウェルドの小さな頭をセルディは通り過ぎざまに小突いておいた。





「おっ、見つけたぜ階段。」
「…いかにも人の居そうな扉を勝手に開けるな。」
 相変わらずの二人の会話を聞きながら、リクは階段へと近づいた。


 4階の攻略は今までとは比べものにならない位に早かった。今まで極力戦闘に参加しようとしてこなかったセルディが突然やる気を出したからだ。 魔物と遭遇すると直ぐにセルディは詠唱もせずに容赦ない一撃を放っていた。
 それに驚いたリクがセルディに訊ねたところ、
「下級呪文くらいなら詠唱しなくても出せるさ。」
 という返答が返ってきた。
 セルディの魔法とウェルドの剣のコラボレーションに倒れない魔物はおらず、リクとヤヨイはますます出番を失った。


「リク、上る前に体力回復させとけよ。そろそろ出る頃だぜ。」
「えっ、うん。」
 そう言われ、リクは慌てて呪文の詠唱に入った。






















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