最後の階へと続く階段をリクたちは勢いよく駆け上った。 「ようこそ俺の首を取りに来た侵入者達よ。」 階段を上り終えた途端に聞こえたその声に、リクたちは身構えた。 「ひぃ!!」 カンダタと思われる巨漢の男を見てリクは上擦った声を上げた。 カンダタは巨漢の体に見合ったいかにも殺傷力のありそうな巨大な戦斧を手にしている。 しかし、リクが上擦った声を上げたのにはもっと別の理由があった。 「ふ…覆面パンツ!!」 目の前にいるこの男、自身のムキムキの筋肉を自慢するかのように、顔を隠す覆面とパンツ一丁のみしか纏っていない。 「ねえ、セルディ…」 驚愕した様子でカンダタを指差すリクの後ろでヤヨイはセルディに耳打ちした。 「ん?」 「この国には、こういった格好をした人が他にも沢山いるのですか?」 「……もしそうだとしたらそんな世界、俺がこの手で滅ぼしてやるよ。」 セルディの発言にウェルドが乾いた笑みを浮かべた。 覆面かぶったマッチョの男達がパンツ一丁で街中を徘徊する。確かにそんな世界は見たくない。 「とっとにかく、覚悟しなさい筋肉ダルマ男!!あたしたちの今後の生活のために!!」 リクは目的を忘れてはいなかったらしい。だが・・・ 「俺、もうどうでもよくなってきた…」 蟹に苦戦しながら辿り着いた村でなんとか情報を入手し、やってきた塔の頂上で待っていたのはこの覆面パンツの筋肉ダルマ男。 そりゃあ戦意も消失し、脱力する。 「手前等、団結力のないパーティだな。」 「…誰のせいだよ。」 言われるまでもなく自覚しているが原因を作ったこの男にだけは言われたくない。 「そんなことはどうでもいいよ。さっさとやる事済ませよう。」 セルディが一歩、前へと踏み出した。 「金の冠は何処だ?」 「…盗賊が宝の在り処を素直に教えると思うか?」 そう答えたカンダタの足元を見てセルディは目を見開いた。 「まさか――!」 「遅い!!」 「――っ跳べ!!」 セルディが叫んだのと同時に、カンダタが足元に合ったボタンを踏んだ。 セルディの声に咄嗟に反応することが出来たのはウェルドだけだった。 ウェルドと、叫ぶと同時に地を蹴ったセルディの目の前で、先程まで立っていた部屋の中央部の床が消失した。 「へっ?」「えっ?」 リクとヤヨイは空になった足元を見て素っ頓狂な声を上げた。 「きゃああぁぁ!!」 近づきつつある地面に、リクは咄嗟に体を丸め衝撃を和らげ、素早く立ち上がるとヤヨイの方へ目を向ける。 「ヤヨイ、大丈夫!?」 「…なんとか」 ヤヨイのほうは上手く衝撃を殺せなかったようで座り込み体の各所を擦っているがとりあえず大きな怪我はなさそうだ。 「リク!ヤヨイ!!」 頭上からの声にリクとヤヨイは顔を上げた。 「大丈夫か?」 「うん。大丈夫!」 今にも焦り取り乱した様子のウェルドに心配をかけまいとリクは微笑みを浮かべて返した。 「リク!!」 ヤヨイの声に弾かれリクはバッと視線を戻した。ヤヨイの指すほうを見ると先程まで誰もいなかったはずの場所に沢山の人の影が。 (囲まれてるっ!) 慌てて剣を構えるリクにウェルドが再び声をかけた。 「ウェル、大丈夫だから!でもちょっと戻れそうにない!」 そう言って盗賊たちに向かおうとしたリクに「うわぁ」っと小さな叫びが聞こえた。 「ウェル?!」 思わず盗賊たちから目を離し上を見上げると片手でウェルドを抱え上げたセルディが自分達を見下ろしていた。 「リク、ヤヨイ、大丈夫なんだな。」 「うん。」「はい。」 じたばたと抵抗するウェルドを抑え込み、訊ねるセルディにリクとヤヨイは同時に頷く。 「なら俺達はカンダタを追うから、そこで待ってろ。」 「わかった。」 「おいっ!何を!!」 ウェルドとセルディの姿が消えて、前へと向き直った二人の耳にウェルドの小さな叫び声が聞こえる。 「うわああぁぁぁぁーー!!」 少しずつ遠ざかる叫び声にリクとヤヨイは顔を見合わせたが、セルディを信じ目の前の事柄に集中することにした。 ウェルドを抱え飛び降りたセルディはカンダタ達の目の前にすたんと見事に着地した。 「ほお、追ってきたか。」 「悪いけど、狙った獲物は逃がさない性質でね。」 不敵な笑みでカンダタと対峙しつつ抱えていたウェルドを地に降ろす。 ウェルドは不服そうに顔を歪めていたが、直ぐに一息吐くと剣を構えた。 「向こうもお前の部下と戦ってるようだし、こっちも始めるとしようぜ。逃げられると思うなよ。」 BACK NEXT 2nd top |