ウェルドの元に再びセルディが現れたのはウェルドがそれまでに調査を終えると宣言した三日後のことだった。 「お前の言っていた通り、ノアニールの町では何かが起こっていたみたいだ。けど、」 「けど?」 先の言葉を聞き逃すまいと意識を傾けてセルディは先を促す。 「調査にやった兵が辿り着く前に、旅の一行が解決してくれていたらしい。」 (やっぱり…) セルディは自身の予想が当たっていたことにあまり喜ばしくない表情を浮かべながら顎に手を当て訊ねた。 「そいつらの特徴は解らないか?」 「男女二人ずつの四人組だったらしい。あとは、どうやら船旅をしているらしいということは聞いている。」 「船……ということはポルトガに立ち寄る可能性が…」 小声で呟かれた言葉にウェルドが首を傾ける。 「何か言ったか?」 「いや、なんでもない。助かったよ、じゃあな。」 そう言って直ぐに立ち去ろうとするセルディをウェルドは呼び止めた。 「なに?」 「俺にロマリア王をやらせたのはこのことを調べさせるためか?」 「それもある。あとは、上手いこと他国の情勢とか探ってくれたらなと思って。」 笑顔で告げられたその言葉にウェルドは盛大に顔を顰めた。 「間者の真似事は、しないからな。」 その返答にふっと微笑を浮かべるとセルディはその場を立ち去った。 広場の長椅子に腰を下ろし読書に勤しんでいたリクはふと顔を上げた拍子に見知った顔を捉えた。 「セルディ!」 セルディは考え事をしていたのか難しい顔をしてリクの前を通過しようとしていたが、その声にはっと我に返ってリクを見やった。 「リク、ヤヨイと一緒じゃなかったのか。」 「うん。ヤヨイは宿屋でお祈りしてるよ。セルディは何してるの?」 「俺は、」 セルディは視線を動かしロマリア城を見上げるとリクに小さく耳打ちした。 「忍び込んでたんだ。」 その言葉にリクははっと表情を険しくしセルディを見上げるが直ぐに呆れたような表情を見せ訊ねた。 「…ウェルのところ? だったらお城の人に言えば会えるのに…」 一週間の間、ロマリア王を務めることになったウェルドは現在王城から出ることが出来ないが、彼の仲間だといえば殆どどんな時間でも面会することが許されている。 リクもヤヨイもそれを利用して何度かウェルドに会いに行っている。その度にセルディにも声をかけていたのだが、彼は毎回、俺はいいや。といって着いて来なかったのだ。 それがわざわざ忍び込んでいたとは。 「いいんだよ。面倒だし。」 「でも、忍び込むなんてよくないよ…」 責めるようなリクの口調にセルディは悪びれなく返した。 「いいんだよ。それよりリク、」 「なに?」 こうして話題を転換すればリクはあっさりとそれに乗ってくる。若干苦笑しつつもセルディは先を続けた。 「俺、ちょっと出かけてくるわ。二、三日戻らないと思うけど心配しないでくれ。」 その言葉にリクは目を見開いた。そして、きっちり三拍のち。 「えっ!!」 飛び上がって驚いたリクにセルディは心底申し訳なさそうに手を合わせた。 「悪い。本当、すぐ帰って来るから。」 「あ、うん…」 「…ごめんな。」 やや不安げな様子で頷くリクにもう一度謝罪を述べ、セルディは踵を返した。そんなセルディの後姿を見、リクははっと声を上げた。 「セルディ!」 「なに?」 「悪いこと、しないよね?」 何故、こんなことを訊ねたのか、リク自身にも解らなかった。セルディがなにか人に迷惑を掛けるようなことをするなどとリクは思っていない。 それなのに、セルディに失礼だとは思いつつもその背中を見た瞬間、その言葉が脳裏に閃き、気付けばリクは訊ねていた。 だが、それに一番驚いたのはリクではなかった。 「――えっ?」 セルディは完全に虚をつかれ瞠目した。そして、声を失いリクを凝視する。 「あっ、ご、ごめん…変な事聞いたね。」 それを不快の意だと取ったリクは慌ててセルディに謝った。そんなリクの様子にセルディは微笑を浮かべた。 「いいよ。全然気にしてないから。」 セルディは再び踵を返し、顔だけをリクのほうへ向けた。 「悪いこと、しないように気を付けるよ。」 冗談めかして言いながら、セルディは内心リクの言動に感心していた。 (本当に、凄い直感力だな。俺のしようとすることに気付きかけてる。…でも、その言葉には肯定できない。) 騙すような罪悪感を感じながらセルディはロマリアの町を出た。 夕刻、宿に戻ったリクをヤヨイはにこやかに向かえた。 「おかえりなさい。リク。」 「うん。ただいま。」 そう答え、リクはヤヨイが地図を広げていることに気が付いた。 「何してるの?」 「少しでも、地名を覚えておこうと思いまして。」 へぇ。とそれに相槌を打ち、リクはヤヨイの反対側から地図を覗いた。現在地、ロマリアの場所を見つけリクは微笑する。 「次はどんなところに行くのかなぁ。皆がそろったら相談しようね。」 「ええ。楽しみですね。」 「うん。」 リクとヤヨイは笑顔を交わし、また地図へと視線を戻した。 BACK 2nd top |