光輝1






 結局、ルディもフィレもアリアハンで目的の人物に逢う事は出来なかった。
 とりあえず同じ目的で旅をしていればそのうち巡り合うこともあるかもしれない。ということで彼等は再び船に乗り込みアリアハン大陸を後にした。
 いま、一向は順調に南へ向けて航海を続けている。
(ん、南?)
 ルディは違和感を覚え、頭の中で地図を思い浮かべた。自分の記憶に間違いがなければアリアハンの南には海だけが広がっているはずである。
「…ビズ…アリアハンの南には、何もなかったはずだよな。」
 共に見張りをしていたビズにルディは思わず訊ねた。
「当たり前だろ。お前一体何を言ってるんだ…!?」
 ルディは無言で空を指した。ビズはそれにつられて空を見上げ、太陽の位置を確認する。
 続いて彼は視線を数刻前に離れたアリアハン大陸へと向ける。
 アリアハンが北側に見え、そちらに船の船尾が向いているということはやはりこの船は南に向かっているということで・・・・・・
「「アルジェーーー!!!!」」
 二人の叫び声が、船全体に響き渡った。




  ノアニール ―光輝―






 世界の端はどうなっている?
 そう訊ねられれば大抵の人々は『海が滝のようになっていて近づいたものはそれに巻き込まれ生きて帰ることができなくなる。』とか、 『進めど進めど永遠に海が広がっている』などという答えを返してくるだろう。
 この世界では『世界は平面状に出来ていてその周りを空が回っている』という天動説が信じられているのだ。


 ルディとビズの会話の通りアリアハンは地図でいえば南部に位置し、その南には海だけが広がっている。 つまり、このまま南へ直進すれば世界の端に到達するか永遠に海を彷徨うことになりかねない。
 ルディとビズは見張りの任を放棄してアルジェが居るであろう作戦室へと駆け抜けた。


「アルジェーー!!!」
 声を荒げ乱暴に扉を乱暴に開け放つ二人とは裏腹に、アルジェはフィレと共に優雅にティータイムを楽しんでいた。
「なんだい二人して慌しい。」
 視線だけを二人へ送り悪態をつくアルジェにビズも半眼になって返した。
「人に見張りをさせておいて自分はお茶とはいいご身分だな。」
「そりゃあなんてったって『船長』だからね。」
「だったら船員に全部やらせてないで自分も働いたらどうなんだ。」


「ビズ…話がそれてる。」
 いつまでたっても話が元に戻りそうになかったのでルディは仕方なく声を挟んだ。
 ビズはハッとしてアルジェに詰め寄った。
「アルジェ!!俺たちを何処に連れて行くつもりだ!!」
「何処って…中央大陸だろ?なんで今さらそんなことを聞くんだい?」
「この船、南に向かってるだろ!」
「ああ。」
 アルジェはポンと手を叩いた。
「なんだそのことか。『地動説』を試してみようと思って。」


 地動説――とある学者が唱えた『世界は球体の形をしていて、空ではなく世界が回っている』という天動説とは反対の考え方である。
 国や教会などが地動説は迷信であるとしてその学者を追放したため、結局民衆には信じられずそれを知るもの自体も殆どいない。
「まあその学者ってのが実は追放じゃなくて島流しにあってたんだけどね。」
「「ルザミか!!!」」
 ルディとビズは同時に声を上げた。確かにあの島に、やたらと大きな望遠鏡のある家が在って、アルジェはその家へ向かっていた。
「あの家、そんなやつが住んでたのか…」
「余計な入れ知恵しやがって。」
「話を戻しても構わないか?
  それで面白そうだったんで試してみることにしたんだよ。」


「でも、もしそれが本当にそいつのたわ言だったらどうするんだよ。」
「あたしもそれが気になってね、フィレに聞いてみたんだ。もしヤバかったら船ごと瞬間移動呪文で飛ばせるかって。そしたら…」
「そんなことをしなくても世界は丸いですよ。」
 今まで口を挟まずにいたフィレがアルジェの言葉に続いた。
「…って言うから南へ向かうことにしたわけ。」
 ルディとビズは激しく脱力し、力なく項垂れた。






















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