光輝10






『ぐあぁああ!』
 怪しい影のあげる悲鳴にビズは口元を釣り上げた。
(いける!これならいける!)
 先ほどまでとは形勢は逆転し、今は影はビズの攻撃に対し防戦一方となっている。 聖水が乾ききるまでにはもう殆ど時間がないがその後はフィレが何とかしてくれる。勝てる。そう思ったその時だった。
『ぐぅぅ…おのれ……!』
 影が何やら今までにない不吉な雰囲気を纏って唸った。
『おのれっ、人間如きがこの私に勝てるなどと思うな!!!!』
「うわっ!!」「きゃあっ!!」
 咆哮と共に放たれた紅い衝撃波にビズとフィレは成す術もなく吹き飛ばされた。











 ざばん、と大きな音をたてルディを抱えたアルジェは水面に顔を出した。
 不思議とまったくと言っていいほど息は荒れておらず、アルジェは一度大きく深呼吸するとゆさゆさとルディの体をゆすった。
「ルディ!大丈夫か?!」
「っぅ……アルジェ…?」
 気絶しているかと思われていたルディから、驚くほど早く返答が返り、アルジェはほっと息をついた。 そして、ルディの側の呼吸も整っているのを見て取ると、何を考えるよりも先にアルジェは怒鳴り付けた。
「この馬鹿!!深さも何もわからん湖にむやみやたらに飛び込むんじゃないよ!!」
「悪い。」
 素直に謝るルディを見て、アルジェはふっと口元をゆるめた。本当ならまだまだ言いたいことはあるのだが、 今回は他ならぬ自分たちを助けようとしたための行為であるため大目に見てやることにしたのだ。


「それにしても何があったんだ?あんた、泳ぎは出来たはずだよね。」
 フィレの作った氷の橋に身を上げながらアルジェは訊ねた。
「ああ。湖に入った瞬間、何かに足を引っ張られて……」
「…足を?」
 アルジェは眉を寄せた。ルディを助けに湖に潜ったときのことを思い返すが、湖の中には生物の姿は見当たらなかった。


「それと、声を聞いた気がしたんだが…」
「声…?」
 そんな馬鹿な。とは思いつつもアルジェはルディに尋ね返した。
「ああ。助けて。と。そう言っていたような気がする。」
 ギュッと手を握り締めたルディを見て、アルジェははっとなって尋ねた。
「そういえばルディ、さっきから一体何を持ってるんだい?」
「えっ?」
 アルジェに指差され、ルディは自身の左手を覗き込んだ。そこで初めて自分が手の中に紅く輝く何かを握っていることに気付き、 ルディは目を見開きその手を開いた。
「!!…これは…?!」
 ルディとアルジェはそこにあったものを見て目を見開いた。否、紅く淡い光が放たれているだけで、 そこにはものといえるような物体的な何かは存在しなかった。


「うわっ!!」「きゃあっ!!」
 耳に届いた悲鳴にルディとアルジェははっとして小島の方向を見やった。
 怪しい影から放たれた紅い光に吹き飛ばされたビズとフィレの姿を認め、二人はキッと眼を鋭くして頷きあった。
 ルディは即座に立ち上がり、氷の上を仲間達の戦う小島に向かって駆け出した。左手に淡く輝く光を握り締めたままに。





 突然の衝撃波に吹き飛ばされ地面に叩き付けられた状態からフィレは僅かに身を起こし、細く眼を開けて怪しい影を見やった。
『くくくっ、人間ごときがこの私に勝てる筈などなかろうが!』
 影は不気味な笑みを浮かべながらその透けた黒い体から紅い光を放っている。
(あれは……)
 紅い光は影の魔力を受け禍々しい輝きを見せているが、その魔力には覚えがある。
 フィレはその瞳に神経を集中させ影の透けた体をじっと見詰めた。そして影の放つ光の最も苛烈な部分を見詰めフィレははっと息を呑んだ。
「まさかっ!」


 その魔力の正体に心当たりを見つけ、フィレは傷む体に鞭を打ち状態を起こすと見開いた瞳を影へと向けた。
「フィレ!ビズ!無事か!?」
「まさか……」  自分達の身を案じるルディの声が間近に迫ってきているのを感じつつ、フィレは影から目を離さず、呟くようにして告げた。
「…エルフの力をその身に取り込んだのですか?!」
 浮かべていた不気味な笑みをぴたりと消し去り影がフィレへと視線を向けた。


『貴様、私の正体のみならず、何故そのようなことが解る』
 影の威圧感のある視線には全く動じず、寧ろ影を睨み返す様にしてフィレは告げた。
「貴方の放ったその魔力、それはエルフの女王様のものと酷似しています。おそらく洞窟に入る前に感じられた魔力も貴方の持つものであったのでしょう。 しかし、貴方は魔族。エルフのものと同じ魔力を持つことなどありえません。 それならば貴方がその魔力を持つ理由は貴方がその力をその身に取り込む以外に方法はありません。」


『…貴様、何者だ。』
「……」
 怪しい影の問い掛けにフィレは無言を持って返した。
『答えろ!何故人間風情が魔力の質を感知できる!?』
「……自身の利益しか省みない悪魔に答えるつもりはありません。」
『貴様っ!!』
 影がギラリと光る眼をフィレに向けた。標的をフィレに絞り今にも飛び掛らんとする影に、フィレは身を引き締め杖を握る両手に力を込めたその時、 ふとフィレの視界に人影が入り、フィレは漸く影から視線を離した。
「ルディ…」


 あえてフィレの視線を遮るようにしてフィレの目前に立ったルディは影に対して隙なく構えつつフィレに視線を向けた。その両隣ではビズとアルジェが其々の得物を構え影に睨みを利かせている。
「今の話…」
 ルディは真剣な眼差しでフィレに問うた。
「エルフの力を身に取り込むための方法は何だ?」
 その答えにおおよその予測は出来ているのであろう。ルディは低い声音で訊ねた。フィレは瞳を伏せてそれに答えた。
「力を取り込むための最も簡単な方法は――」


「――取り込みたい力の持ち主を喰らう事です。」  
















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