光輝2






 ルディとビズが地動説を認め安堵の息を吐いたのは、それから数日後水平線の彼方に島影が見えた時だった。
 数日間の緊張から解き放たれ安堵に表情を綻ばせるルディたちにアルジェは得意気に言った。
「な。言ったとおりだっただろ。」









 島影が見えてから西に進むこと数日。一行は中央大陸最北の町、ノアニールの近郊に上陸した。
 しかし久々の陸に対する喜びは、森を抜け、町に入る頃には消えていた。


 町の中に入っても彼らに対する歓迎の声も雑談の声も、それどころか人の姿のひとつも見当たらない。
 それだけではない。町の外と比べて中の空気が若干重く淀んでいるように感じられる。
「なんなんだ、ここ…」
 思わず呟いたビズの声にルディとアルジェは首を振った。
「解らない、ただ…」
「普通じゃないことは確かだね。」


 誰からともなく足を止めた彼等をよそにフィレは一人町の中心部へと歩を進める。
「おいフィレ!一人じゃあ危ないぞ。」
 気付いた三人が追ってくる中、フィレはぴたりと足を止めた。
「フィレ、どうし…!!」
 追いついた三人も彼女の前にあるモノを見て絶句し足を止める。


 それは人を模した像。否、像のような人間だった。
 店へ向かって歩く者、家の傍で雑談を繰り広げる者、鬼ごっこをして遊ぶ者。 それぞれそうやって日常を過ごす人々の姿そのもので、しかし彼等は皆石のように固まったまま動かないのだ。


「これは…呪…?」
 フィレは人々を見、動揺を隠さず口元に手を当て呟いた。
「強力な…とても、強力な、恨みの篭った…のろい……町全体を覆って、人々の時を、奪って…いる。」
 その力に込められたものへの恐怖からか、彼女の体は小刻みに震えている。
「フィレ?」
「ここは駄目。長くいてはいけない…人間のものではない、負の感情が籠められた、とても、とても…強力な――」


「フィレ!!」
 激しく肩を揺すられて、フィレはハッと我に返った。
「ル…ディ……!」
「フィレ!…大丈夫か?」
 心配と困惑が入り混じった表情でフィレを覗き込むルディに、彼女は胸に手を当て息を整え大きく息を吐いてから頷いた。
「大丈夫、です。少し、驚いただけ、ですから…」
「そうか。良かった。」


 フィレはルディと、その後ろからこちらを見据えるアルジェとビズを順に見回す。
「あのう…ここから出ましょう、一刻も早く。ここに長居してはいけません。」
「そうすれば、話してくれるのかい?」
 怪訝そうな様子のアルジェにフィレはこくんと頷いた。





「あの町には強力な呪いがかけられています。」
 一時船へと帰還して彼等はフィレの話に耳を傾けた。
「いつからかは解りません。しかし先程見た人々はその呪いをかけられた時からずっと本来の時の流れから切り離されてああして眠っているのです。 彼等は自分達の時が止まっている事にも気付いていません。わたしにはあの呪を掛けたのが誰かまでは解りませんが、人間でないのは確かです。……アルジェ?」
 部屋の片隅でアルジェが音を立てながら何かを探している。
「待ってな。確かここに………これだ!」
 やがて目当てのものを見つけ出したのか、丸めた大きな紙を机の上に広げる。


「この近辺の地図か。」
「ああ。」
 アルジェはノアニールの町のある場所に指を置き、そこから指を左の方向に進めていく。
「ノアニールの近辺で人間じゃないものって聞けば、あたしの知ってるもので言えばこれくらいだよ。」
 そう言って指を止めた位置を他の三人が凝視する。それはノアニールの西にある深い森の中心部に書かれた小さな文字。


「『迷いの森』…?…これがどうかしたのか?」
 疑問符を浮かべるビズに呆れた様子でアルジェが答える。
「真っ直ぐに進んでいるはずなのにいつの間にか同じところをぐるぐると進んでいて奥へと進めない。どうしてだと思う?」
「そりゃあそいつが方向音痴だからだろ……ぶっ!!」
 ビズの顔面をアルジェが思いっきり叩き飛ばした。
「何しやがる!!」
「あんたが見当違いな答えを出すからだ!!」
 睨み合う二人をよそにルディとフィレは地図を見て考え込む。
「同じところを進む……結界か?」
「ああそうさ。流石ルディ。そこの馬鹿とは大違いだ。」
「だれが馬鹿だ!!」


「森の中、結界……アルジェ、貴女が言っているのはエルフのことですか?」
「正解。この森にはエルフの里があると云われているんだ。」
 エルフは妖精族の一種で妖精の中でも一、二を争うほどの人間嫌いだと言われている。 森に人間が侵入することがないように結界を張り、その中に里を創って隠れ住んでいるのだろう。
「だったら勿体ぶらずにさっさと言えよ。」
 ビズの吐いた悪態をアルジェは一睨みして黙殺する。


「それじゃあエルフがあの町に呪いを掛けたっていうのか!?」
「ええ。それもあれはかなりの恨みが篭ったものです。町の人々とエルフとの間に何かあったのではないでしょうか。」
 エルフと人との争いは過去に何度も起きたことがある。今回のこともその一例であろう。
「まあ何にしても、やるべき事は決まったね。」
「だけど結界が張ってあるんだろ?どうするんだよ。」
「大丈夫です。」
 フィレが堂々と宣言した。
「その結界、わたしがなんとかしますから。」






















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