光輝4






「貴方達人間に話すことなどありません。直ぐにここから立ち去りなさい。」
 遠巻きに彼らを見つめるエルフたちに気遣いながら辿り着いた女王の間。
 しかし、そこで彼女が発した第一声に、ぷつん。と何処かで何かが切れる音がした。









 ルディは人の上に立つ者が、特に高飛車な言動をするものが好きではない。 これは何もルディに限ったことではないがルディは特にそういった人物を嫌う傾向にある。
 それは豹変したサマンオサ王のせいで家族を失った悲しみと怒りから来ているものである。
 普段は穏和な彼だがこういった人物を前にしたときにまで穏和でいられるほど彼はお人好しではなかった。


 不自然な沈黙の中で、初めに口を開いたのはルディだった。
「…随分とご挨拶だな。」
 俯いたルディの相貌が険しく細められ、その瞳が女王を射止める。
「なっ――!!」
「エルフってのは自然を愛し争いごとを嫌う心優しい種族って聞いていたけどね。 いくら人間が嫌いだからといってここまで酷いとは思ってもいなかったよ。」
 絶句する女王に対して追撃を放つかのように乱暴に言葉を並べる。
「正直言って期待はずれもいいところだね。」
「同感だ。そもそもこの里の雰囲気自体が初めから気に食わなかったんだ。」


「あ〜…」
 突然の出来事に絶句するフィレの隣でビズがどこか諦めに近い声を漏らした。
 その声にハッと我に返ったフィレは訳が解らずおろおろとルディたちとビズとを交互に見やる。
「あ、あの…」
「…まぁ、いろいろあってな。アルジェと…ルディは特に、『王』ってもんが嫌いなんだよ基本的に。」
 ビズはフィレの視線の意味を的確に読み取り返答を返す。
「俺も嫌いだけど、ああいう身分とか種族とかで態度を変えるやつは。」
 その言葉に怒気が籠もっているところを見ると、ビズも二人と同じ気持ちなのであろう。


「あの…ビズはいいのですか?」
 場にそぐわぬ質問だと――もしもビズまでがあの舌戦に加わればさらに収集が着かなくなるだろう―― 理解しながらもフィレは訊ねずにはいられなかった。
「遠慮しとくよ。一番言いたかったことはルディが言ってくれたしな。…フィレは? なんとも思わないのか?」
「……思わなくはないのですが…」
 実際、ルディとアルジェの気持ちも解らなくはないのだ。もしも誰も口を開かなければ自分が開いたかもしれない。 フィレはそう思っている。尤も、彼女が怒りを感じた理由は彼らとは若干ずれているのだが。


「いい加減になさい!!」
「はっ!図星点かれて切れるようじゃあ王の器とはいえないんじゃないのか!?」
 顔を真っ赤にして怒鳴り返す女王にもアルジェは動じた風もなく淡々と返す。隣にいるルディにも動じた様子はない。


「…まずいな」
 二人の後ろでビズがぽつりと呟いた。
 ますます激化する舌戦を止めに入れるものは誰もいない。普段なら切れたアルジェをルディが上手く丸め込み事なきを得るのだが 議題が議題だけにそれは望めそうにない。かといってビズが静止をかけたくらいでは動じないことは目に見えているし、 フィレはフィレで先程からビズの隣で真剣な面持ちでエルフの女王をじっと見つめている。 望むはエルフの側の仲裁だが彼等は人間を嫌っているし、それ以前に女王と二人とを見比べおろおろと取り乱しているエルフの兵士に そんなことは望めそうにない。


「………そこまで言うからには、覚悟は出来ているのでしょうね。」
 激化する舌戦の末、女王はとうとう我を失い激昂した。一見、先程よりも落ち着いたかのように見えるが完全に目が据わっている。 これには流石にルディとアルジェもギョッとした。


「いけません!!」
 続いてフィレが真っ青になって叫んだ。その直後に膨れ上がった魔力にその場にいた誰もが息を呑んだ。
「このわたくしを侮辱した罪、その身で味わいなさい!!」
 女王の言葉に呼応するかのように竜巻にも似た風がルディたちを襲った。
「ルディ、アルジェ!こっちへ!!」
 振り返るとフィレが見たことのない杖を握っていた。


 暴風はその後すぐに吹き止んだ。ただし発動者の意思でではなくそれを上回る魔力によって掻き消される形で。
「…随分な、やりようですね。」
 呪文の発動を妨害した張本人―フィレは目を見開き絶句する女王に対して杖を突きつける形で静止していた。 手にした木製の杖の先端は淡く発光しておりそれは今もフィレが女王の魔法を押さえつけていることの証であった。


「こちらの非礼はお詫びします。」
 そう言ったフィレの口調は言葉とは裏腹に冷ややかなものだった。
「しかし仮にもこの里の族長を務めるものとしてもう少し自重すべきなのではないですか?」
 その問いかけに返答はない。
 フィレは続ける。
「私達はノアニールにかけられた呪のことについて伺いに来たのです。その理由くらいはお教え頂きたいのですが。」
 言い終えて、フィレは漸く突きつけていた杖を降ろした。
 ルディは、いや、ここにいる全ての者達はその杖が光の粒子のように消えていくのを見た。


「貴女は…!」
 エルフの女王は先程とは違う意味で絶句した。
 暫くして女王は瞳を閉じて深く息を落とした。
「………分かりました。お話しましょう。」






















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