「むか〜し、むかし。エルフのお姫様は人間の男に出会いました。若い二人は瞬く間に恋に落ち二人は親に自分達の交際を認めるようにと頼み込みました。 しかし二人はエルフと人間。二人の家族のうちの誰一人として二人の関係を認めるものはいませんでした。」 「そこで二人はある決断をした。二人はある闇夜にエルフの宝である『夢見るルビー』を持ち出し、駆け落ちを実行した。 二人は二人のことを知るもののいない異国の地で幸せになるはずだった。」 「しかし、実は男はエルフの宝目的でお姫様に近づいた悪い男だったのです。夢見るルビーを奪い取られたお姫様は里に帰ることも出来ず、今も何処かで一人寂しく涙を流し続けているのです。 ………さて、呪いの原因も解ったし部外者はおとなしく船に帰りましょう。なんて、」 「「出来るか!!」」 ビズとアルジェは怒りを露に叫んだ。といっても怒気を向ける相手はこの場にはいないのだけれども・・・ 結局、エルフの里からは追い出された。 女王の話の内容はビズとアルジェの要約したとおりで、それを聴かされた後はそれに対して質問や反論をする暇さえも与えられることはなく女王の一言によって成す術もなく里から追い出されてしまったのだ。 「大体、駆け落ちした後のことはあの女王様が想像したことだろ!?実際にそうだったという証拠は無い。」 「仮に女王の言うとおりだったとしてもそれはその男一人の責任だろ。ノアニール全体に呪いをかける理由にはならないね。」 ビズとアルジェの二人は里から出た直後から終止この調子で言い合いを続けている。 普段二人をなだめる立場にいるルディはまだ先程の怒りが収まらないのか里を出て以来一言も発していないので二人の言い合いは収まることがない。 「でもどうするんだよ。里は追い出されちまったし村の連中は全員呪いとやらで寝こけてるんだぜ。それにそのエルフと人間、とっくの昔に出て行っちまってるんだろ。」 「打つ手なし…か。一度船に戻るかい?」 アルジェは是非を問うために後ろを振り返った。 「…?」 十数歩ほどの距離を開け歩を止めぼんやりと森の奥深くを見つめるフィレの姿にアルジェは眉を寄せた。 「フィレ?」 呼びかけるとフィレははっと肩を震わせフィレはこちらに駆け寄った。 「どうかしたのか?」 まだ些か不機嫌さの残るルディが訊ねるとフィレは何か迷ったように数度先程見ていた方向と彼等を見比べ意を決したように口を開いた。 「あちらの方角には、何かあるのですか?」 そう言って指差したのはエルフの里よりも更に森の奥深く、南側の方角。 困惑しながらもビズがすぐさま地図を取り出し確認を取るが、此処はエルフ族の結界に隠された迷いの森。その奥のことなど解る筈も無く、ビズは力なく首を振った。 「そっちに、何かあるのか?」 「…気のせいかもしれませんが、」 フィレは握った手を口元に当て、胡乱気な表情で答えた。 「この先から、ノアニールの町や森の入り口にあった結界、それにエルフの女王さまが魔法を使おうとした時のものと似た魔力を感じるのです。微かなものですから断言は出来ませんが…」 三人は視線を合わせた。 彼等は何も感じてはいないが魔法に係わることならば心得の薄い自分達よりもフィレの感覚を信じるのが打倒だろう。 そう視線で会話し三人は頷きあった。 そして、アルジェが一歩フィレへと近づいた。 「待ってな。」 そう言うとアルジェは瞳を閉じた。 周囲の全てを意識から切り離し外のことを何も気にせず深く深く意識を内へと傾ける。 やがて五感から届く全ての情報が遮断されたかのような感覚に陥った瞬間、アルジェは小さく唱えた。 「『鷹の目』」 刹那、閉じられた瞳の中に光が差し込みアルジェの視界は遥か上空へと舞い上がった。 まず初めに、森の中に一点だけ開けた場所が映った。エルフの里だ。そこから少しずつ視界を南下させていく。 (…あれは) さして遠くは無い場所に大地がぽっかりと闇に向かって口を開けている。それを捕らえアルジェは瞳を開けた。 「…洞窟が、あるね。」 元に戻った視界にフィレを映してアルジェは告げた。 「今のは…探索呪文?」 「そう。殆ど魔力を使わないからコツさえ掴めばあたしみたいな魔力の少ない人間でも使えるのさ。」 得意気に片目を閉じて答えた後、アルジェは真剣な眼差しで順に三人を見た。 「それで――」 どうする。とは訊くまでもなかった。誰からともなく進行方向を南へ向けて、 「行ってみよう。」 ルディの一声に彼等は一斉に進み出した。 BACK NEXT 2nd top |