光輝6






「っ、ここは!」
 洞窟の中を覗き込み、フィレは息を呑んだ。否、息を呑んだのはフィレだけではなかった。
「フィレ…此処は結界の中だよな。」
「ええ。そうです。」
 身を硬くして訊ねるビズにフィレは神妙な面持ちで頷いた。
「だが、この気配は…」
「魔物の気配だ。それもかなり異様な。」
 ルディはチャッと腰に差した剣を鳴らした。
 それを感じるのに魔力の大小など関係なかった。魔力を全く持たぬものでもこの洞窟の異様さに気付いただろう。其れほどに洞窟の中は負のオーラで満ちていた。


 ゴクンと唾を飲み込み、ルディは鞘から剣を抜いた。それに習ってアルジェは右手に鞭を左手にナイフを構え、ビズは背中に背負っていた槍を手に取り、フィレは手の中に杖を出現させる。
「気を付けて行きましょう。おそらく、なかの魔物もこの空気で凶暴化していると思います。」
「ああ。行こう。」
 四人は頷き合い、闇へと続く洞窟へと足を踏み入れた。











「っはぁ、くそっ!」
 石柱にもたれかかりビズは悪態をつく。向かいにある石柱に腰を下ろしたアルジェも渋い顔をして荒い呼吸を繰り返している。
「気を付けて行こうって自分達が言ってたくせに…!」
 そう言ったフィレとルディの姿は今はない。
「仕方ないさ。あれだけの数の魔物とやり合ってたんだ。」
 襲い来る魔物達は個々の実力はサマンオサの周辺に出現するものに比べれば格段に低いのだが、多勢に無勢で攻められては優位に立つことは適わなかった。


「バギマっ!」
 フィレの放った真空の刃に魔物達が飛ばされ道を空ける。そこに素早くアルジェが入り込み鞭を使って牽制しルディとビズが其々の得物で止めを刺し新手の魔物が来る前に先へと進む。 そのパターンを何度も繰り返し、漸く地下一階から先に進めるのではという頃であった。


 それまでと同じようにビズとの息の合った連携で魔物を倒し振り返ったルディはフィレに背後から牙を剥く魔物の姿を捉えた。
「フィレ!!」
 すぐさま駆け寄り魔物の牙が届く直前にフィレを抱えて飛びずさる。
「大丈夫か!?」
「えっ、ええ。」
 倒れこんだ体を素早く起こしルディはフィレを見やった。彼女の無事な様を見てルディは安堵の息をつく。


「ルディ!フィレ!」
 ビズの声に二人はハッと前に向き直った。運の悪いことに新手の魔物達が現れ二人とビズとアルジェの間を阻んでいる。
 ルディはフィレを背に庇い後ずさる。だが、その背後からも魔物の荒い息遣いが響きルディは舌打した。


「フィレ、お前の魔法であいつらの所まで道を開けるか?」
 早口に訊ねるルディにフィレは申し訳なさそうに首を振る。
「駄目です。一度に倒せるような上級の魔法では二人を巻き込んでしまいますし、そうでないものだと二人のところまで辿り着く前に後ろから魔物に追いつかれてしまいます。」
「くそっ!」
 ルディは一心不乱に剣を振るい魔物の群れを撃退しながらビズとアルジェに向かって叫んだ。


「ビズ、アルジェ!先に行け!!」
「なに言ってやがる!!直ぐにそっちに――」
「いいから行け!!」
 ビズの声を遮りルディは声を張り上げた。


「分かった。」
「アルジェ!!」
 駆け寄ろうとするビズの腕を掴み頷いたアルジェにビズは非難めいた声を上げた。
「このまま此処に留まればますます危険になる。」
「だが――!」
「あの二人なら大丈夫だ。行くよ。」
「……解った。」


「ルディ先に行くよ!後で必ず追いついて来い!!」
「わかった。」
 返事を聞くと同時にアルジェとビズは駆け出した。


「ルディ!此方にも道がっ!」
 階下に続く階段を駆け下りる直前に二人の耳にフィレの高い声が小さく届いた。


「分かれたのがこの組だったのは幸いだね。ルディならフィレを守りきれる。」
「…そうだな。」
 フィレは魔法においては誰も右に出るものはいないというほどに凄まじい力を持っているが直接の戦闘に関しては護身術もままならないほどの実力しか持たない。
 ルディの剣は攻める時よりも守る時の方が冴えを見せる。幼馴染で常に彼の戦い方を見ていたビズとアルジェは誰よりもそれを理解していた。


「暫く休んだらあたし達も行くよ。」
 地下二階に湧き上がる泉の中心にある小島。この泉の周辺には何故か魔物達は近づけないようである。
 フィレがいればその理由も解ったかもしれないがいないものは仕方ない。使えるものは使ってしまえと理由も解らぬままに二人はこの場所でしばし休息をとっていた。 だが、そう長くこの場に居座っているわけにはいかない。別の道をいった二人と何処かで合流できることを信じ先に進まなければならない。


「ビズ。あんたなんか使えそうなアイテム持ってないのか?」
 ルディとフィレ、アルジェとビズという組み合わせはフィレを守りながら戦うことを考えれば善良だが回復魔法が使える二人が固まってしまったことは回復魔法の使えない此方にとっては心許ない。
「…そうだな、薬草と、聖水ぐらいか。」
 ビズはいそいそと鞄の中からそれらを取り出す。だが役に立ちそうなその二つの道具もこれからの探索を考えれば量が少なくやや不安が残る。
「…その槍以外に武器は?」
「無い。持ってきた分は全部船の中だ。」
 アルジェは大きく嘆息し額を押さえた。


「使えないなこの駄目商人。」
「うるせぇ」
 アルジェの言葉にビズは反論できずそっぽを向いた。
















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