「うわぁ、凄い!」 目の前に広がる町の様子を眺めリクは目を輝かせた。 「本当に。私、祭り以外でこんなに沢山の人を見たのは初めてです。」 視線を忙しく動かすリクとヤヨイ。そんな彼女達の様子にセルディは困ったように息を吐き微笑んだ。 「気をつけろよ。人が多いということは犯罪も多いということに繋がりかねない。」 「成程、お前みたいな悪党にとっても都合にいい場所って訳か。」 諭すようにそう告げるセルディを後ろからウェルドが半眼でみあげた。普段一つに結わえられたその髪は今は下ろされ風に吹かれてさらさらと揺れている。 「そうそう俺みたいな…ってオイ!」 セルディが振り向いたころには既にウェルドは彼の隣を通り過ぎリクたちのもとへと向かっていて、セルディはその様子に嘆息した。 信じることにするなどと言っていた割にウェルドの態度はそれ以前と全く変わりはしない。 「おいこら、まだ怒ってるのか? ガキじゃあるまいし。」 「別に。」 素っ気なくそう返し先を行くウェルドとそれに文句を言いながら続くセルディ。そんな二人の様子を横目に見ながらリクが一言。 「素直に謝ればいいのにねぇ。」 「確かに。」 ヤヨイもそれに大いに同意しながら、二人はのんびりと町への入り口をくぐった。 砂漠との境に程近いところに創られた町アッサラーム。流通拠点としても重宝され活気のあるこの町にリクたちが辿り着いたのは夕刻、空が紅に染まる時間帯であった。 アッサラーム ―雨気―町へと到着した一行はまず初めに宿へと向かい、部屋を取り荷を降ろした。ロマリアの城下町に辿り着いた時にはその直後にリクが町を見て回るために宿を出たのだが、今回は同じように外へと向かおうとするリクをセルディが呼び止めた。 「なに?セルディ??」 遊びに出る直前に呼び止められた子供のようにムッとして尋ねるリクの様子にセルディはわざとらしく深々と溜息を吐いた。 「いいか、さっきも言ったがこの町には犯罪者も多いんだ。もう日も暮れる。探索は明日にするんだな。」 「むぅ…」 頬を膨らますリクに更に釘を刺すためにセルディは続けた。 「俺も噂でしか知らないが、人攫いなんかもいるらしいからな。絶対に行くなよ。」 「わっ、わかってるよ…」 勢いよく返事を返すリクだがその目は思いきり泳いでいる。 と、そんなリクとセルディの脇で、ウェルドが小さな音を立て立ち上がった。 「ウェル?」 突然此方へと向かってくるウェルドにリクは首を傾けた。 「ちょっと出掛けてくる。」 そう言ってリクの横から扉を開き外へと向かおうとするウェルドの肩をセルディはがっちりと掴んで引き止めた。 「…なに?」 顔色一つ変えずセルディを見上げる最年少の少年にセルディは真剣な、今までに見た事がないくらい真剣な表情で尋ねた。 「お前、今の俺の話、聞いてた?」 「聞いてたけど、だから?」 素でそう答えたウェルドに、セルディはがくんと項垂れた。 「いいか、夜は特に犯罪者が多い。盗賊のギルドや闇市なんかは夜に開くからな。」 「ああ。それで?」 「スリを働くような人間がいる。」 「直ぐに取られるようなところに財布を入れておかなければ良いんだろ。」 「人攫いが出る。」 「噂だろ。それに、周りに気を配り、人通りの多いところを歩いていればそんな心配は要らないと思う。」 その手があったか。とウェルドの隣で合いの手を入れるリクの事はあえて無視してセルディは続けた。 「お前、どれだけ自分が標的になり易いか自覚してるか?」 「はあ?」 (やっぱ、知るわけないか…) 胸中でそう呟きつつ、セルディはびしりとウェルドに向かって指を突き出した。 「そんな身なりの良さそうなガキがこんな遅くに町に出歩いてれば、狙ってくれと言っているようなものだろうが!」 その言葉と剣幕につられるようにリクとヤヨイもまじまじとウェルドを見る。服装は質素なものだが髪質は良いし、普段の行動を考えれば思い当たる節は無いでもない。 「王様、似合ってたしね……お忍びの貴族さまって感じに見えるかなぁ?」 ロマリアでの件を思い返ししみじみと告げるリクにヤヨイも続けた。 「確かに、民間人といった雰囲気ではありませんね。」 「……ヤヨイには言われたくない。」 やや不機嫌に顔を歪ませウェルドはささやかな反論を返した。 「だけど、ウェルはどうして出掛けたいの?」 リクは首を傾け尋ねた。ウェルドが自分のような見物目的で外出するとは思えないし、わざわざセルディの小言を掻い潜ってまで行かなければならないような急ぎの用などこの地に着たばかりのウェルドにあるはずも無い。 「いや、今行きたいのはなんとなくだけど。…しいていうならこいつのせいだな。」 ウェルドがそう言ってセルディを差すとセルディは一瞬キョトンと目を開くと納得した様子でポンと手を叩いた。 「お前、そんなにそのままにしとくのが嫌なのか? そんなこと別に明日でも構わんだろ?」 「確かにそうだが…元凶が偉そうに言うな!」 セルディを睨み上げ声を低くして言うウェルドの様子にリクは苦笑を浮かべて呟く。 「やっぱり、セルディが謝れば済むんじゃないかなぁ…」 「同感です。」 隣からあっさりと肯定の声が返った。 NEXT 2nd top |