月光1






 見渡す限りの青い空、青い海。そんな海の彼方にやがて船の往来の激しい港町が見え始めた。
「見えた!ポルトガだ!」
 ノアニールを出てより目指してきたポルトガの国の海の玄関口を指差し、船員たちが口々に歓声を上げた。 何しろまともな港に停泊するのはアリアハンに立ち寄って以来である。いくら船旅に慣れた者たちとは言え皆が羽目をはずして喜んだとしても無理はない。
「ふぅ。漸く着いたか。」
 穏かな波に乗りゆっくりとポルトガ港へと向かう船の中。他の船員たちと違わずルディは安堵の息を吐いた。
「えぇ。ルディの探すアリアハンの勇者様が見つかると良いですね。」
「あぁ。フィレの探している人もな。」
 ルディの返答にフィレは若干の間を置いて返した。
「そう、ですね。」


「絶対に、見つけないと…」
 若干影を落とした表情で胸の前でぎゅっと拳を固めて、フィレは短く呟いた。




  ポルトガ ―月光―






 港に入港するとすぐ、アルジェは船員たちに備品の整理や買い出しなどを命じ、自身はルディとフィレと共に自由行動だとポルトガの町へと向かうことを告げた。それに対し買い出し係に任命されたビズが即座に苦言を呈す。
「おい、これは嫌がらせか?」
「勿論。」
 ビズが命じられたのは食料の買い出し。ルディが記したメモを片手にうんざりとした様子で尋ねればアルジェは平然と頷いて返した。
「エジンベアでは随分と迷惑を掛けられたからな。それ全部、お前とバートとで頼むな。」
 更にはルディにまで追い打ちを掛けられ、ビズはがっくりと肩を落とした。そんなビズとは裏腹に、バートは任された雑用に何故か楽しそうな様子で準備を進めている。
「荷物を運ぶのはこの荷台を使えばいいんだね。」
「あぁ。頼んだよ。」
「うん。了解したよ。さあビズ、行こうか。」
「ほら、行ってこいよ。」
「ちぇ…分かったよ。」
 渋々と出掛けるビズを見送ると、ルディとアルジェはフィレを引き連れ、自分たちは気楽な様子で船を降りた。


「でも、良かったんですか?他の人たちは色々とやらなければならないことがあるのに、私たちだけが自由行動だなんて…」
「いいんだよ。俺たちはエジンベアで働いたからな。」
「そうそう。」
「…いや、お前は何もしてないだろ。」
 ルディの零した文句をアルジェは当然とばかりに無視した。


 町へ出たルディ達は一番に町の宿屋へと向かった。自由行動とはいえルディとフィレの当面の目的は共に人探し。 それも相手が旅人であるので、旅人に関する情報が一番集まりやすそうな宿屋を選んだのだ。
 とはいえそうも簡単に目当ての人物が見つかるわけも無く、ルディ達は数件の宿屋を巡った所で、港の傍にある海に面したテラスへ赴き腰を下ろした。


「…収穫なしだね。リクっていったっけ。此処には来ていないのかもしれないね。」
「そうだな。アリアハンから旅の扉を抜けた先は隣国のロマリアだから、もしかしたらと思っていたんだけどな。」
 肩を竦めるルディにアルジェも苦笑を返す。
「情報を得るならロマリアに向かえば確かなんだろうけどね。…船を置いていくことになるが行ってみるかい?」
「そうだな……だけどリクがアリアハンを旅立ってからの時間を考えるともうロマリアにはいないだろうし…それに、ビズやバートの用も早く済まさせてやりたいしな。」
「なら次の目的地はスーにするか?だけどそうするとまた中央大陸から離れてサマンオサ方面に戻ることになる。」


 今後の方針について思案するルディとアルジェ。ルディは考えをめぐらす最中にふと視界にフィレを捉えてはたと気付いたように声を上げた。
「そういえば、フィレ、俺たちに付き合っていて良いのか?誰かを探しているんだろ?」
「えっ!?あ、えぇ。そうなのですが…」
 突然声を掛けられたことに驚いたかと思うと、フィレは一拍の間俯き瞳を閉じるとルディに向き直った。
「恐らく此処にはいないのだと思います。彼の魔力を感じることは出来ませんから…」
「そっか…お互い、残念だったな。」
「そうですね。」
 苦笑して見詰め合うルディとフィレにアルジェは肩を竦めた。


「それにしても便利だね。その魔力を感知するっていうのは。その力でリクを見つけることは出来ないのかい?」
 ふと思いつき、アルジェは尋ねた。それに対しフィレは力なく首を振る。
「ごめんなさい。私が彼の存在を感じることが出来るのは、彼の魔力を良く知っていることと彼の持つ魔力がとても膨大なためです。といっても彼は普段はその魔力を隠しているので余程近くに行かなければ感知することは出来ませんが。 …ですので私にはその方の魔力を感知することは出来ません。私はその方を知りませんし、知っていたとしても私に感知できるかどうかはその方の魔力の質にもよりますし…」
「なんだ。残念。」
「ごめんなさい。」
 気落ちするフィレにアルジェは微笑した。
「いいよ。こっちもそう上手くいくと思っていた訳じゃないしね。」
 そう言うとアルジェは立ち上がった。


「さぁ、これからどうしようか?何処か行きたいところがある奴はいるか?」
 開き直ったアルジェに釣られてルディも微笑を浮かべる。
「いや。俺は特にないな。」
「…なら、私は教会に行きたいです!」
 フィレの提案にルディとアルジェは顔を見合わせ頷いた。
「決まりだね。」  






















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