夢の中より想う






「さみしいけど、そろそろお別れの時が来たみたいね。ほらっ、あたしは皆と違って自分の実体が無かったから…」
 止まらない涙を精一杯に抑えて笑顔をつくり、そう言ったあたしに貴方は手を伸ばした。
「バーバラ!――」
 きっと何を言ったらいいのか解らなくなったんだろう。声の無い声で何かを訴えながら抱き寄せられたあたしの体は貴方の腕をすり抜けて、貴方の手は宙を切る。
 ねぇ、あたし、もう貴方に触ることも出来ないんだね。
 貴方の腕の温もりも感じられないままに貴方の胸の中に納まったあたしは、決して触れられはしないこの手で貴方の方を伝う涙を拭った。
 引き戻される。そんな感覚と共に、とても世界を救ったとは思えない情けない表情であたしを見つける姿が霞んでいく。
 きっと貴方からも、あたしの姿は見えなくなってしまっていっているんだろうな・・・
 あぁ、もう、本当にほんとうのお別れだね。
「さようなら、アトラス…」
 もう貴方にあたしの姿が見えているのかどうかも解らないけれど、最後に見せる顔が泣き顔になるのは嫌だから、満面の笑みをつくってあたしは言った。
「皆にもよろしくね…」
 もう会えない。心でどんなに拒絶しても、それがどうにもならないことだって、頭ではちゃんと理解出来ていて、だからもう顔を見ることすらも出来ないであろう皆への伝言も別れの言葉と共に貴方に託す。
「あたしは、皆の事絶対に忘れないよって。」
 その言葉を告げると共に、あたしの意識は急速にこの世界から遠のいた。


――さようなら、アトラス。あたしの大好きなひと――


「バーバラ!――、―――!!」
 遠のく意識の中で、貴方が懸命に何かを叫ぶ声を聞いた気がした。









 窓から差し込む優しい朝の陽ざしに、バーバラは眩しそうに瞳を開き、夢見心地に辺りを見渡した。
 見慣れない部屋に回らない頭で思考を巡らせたバーバラは、そこがクラウド城において自分に宛がわれた部屋であるということを思い出した。 それに気付くと、それまで夢見心地であった脳が急速に覚めていくのを感じ、バーバラは肩を落とした。
「なぁんだ、夢か…」
 瞳を閉じれば蘇る仲間たちとの出会い、冒険、そして別れ。
 思い出に一通り想いを馳せると、バーバラはぱっと身を起こした。
「よし、今日も一日頑張ろう!」
 湿っぽいのは似合わない。バーバラはぐっと伸びをすると、気合を入れて声を上げた。


 バーバラがクラウド城に身を寄せているのはカルベ夫妻の言葉を受けて、ゼニス王のもとで様々な事を学んでいく為である。 カルベ夫妻の読み通り、この城にはバーバラの知らない魔法の知識が沢山あって、バーバラはそれを知るのが楽しかった。 それに此処クラウド城の人々も、故郷カルベローナの人々も、バーバラにとても優しい。バーバラはそんな人々に囲まれて充実した毎日を送っていた。
 それでも、あの日からこの想いが消えることは決してない。


――会いたい――


 人の気持ちに鈍感だけどとっても頼りになるハッサン、同じ女の子同士で優しいお姉さんのミレーユ、年下で腕っ節は強くないけど人を癒す神の力を持ったチャモロ、気さくでパーティのムードメーカーだったアモスさん、 とっても格好良くて強いけどぶっきらぼうで照れ屋さんなテリー、そんなテリーが大好きで魔物だけど心強い仲間だったドランゴ。


 そして、少し頼りないところもあるけれど、勇敢で、とてもとても大好きなアトラス。


 夢と現とその狭間。世界を超えて共に旅した仲間たちに。大好きな彼に。
 でも、そんな方法は何処にも存在しない。


――会いたい――


 頭の中の冷静な部分がそれは叶わぬ夢であると告げるのに、そう思う心はどんどん大きくなっていって、 バーバラは気が付けばレイドックの城下町に佇んでいた。
「…あたし、なんでここに来たんだろう…」
 一通り町を見て回った後、バーバラはなんだか虚しくなって呟いた。
 例え同じ町でも此処は夢の世界。現実の世界に住まう彼等に会えるわけがないのだ。解っていた筈なのに、一体何を期待していたのだろうか。
「…帰ろう。」
 此処にいると物悲しさが込み上げて来るような気がして、バーバラは踵を返した。


 と、そんな彼女の腕を、誰かの暖かい手が引き止めた。
「バーバラ!」
 同時に耳に届いたその声に、バーバラは眼を見開いた。
(まさか――!)
 淡い期待と不安を胸に振り返ったその先には、会いたいと願ってやまなかった青年が息を切らして佇んでいた。
「やっぱり、バーバラだ!!」
 青年――アトラスはバーバラを見遣り笑みを浮かべた。
 ありえない、これは夢だ。バーバラの脳裏にそんな考えが浮かんだが、暖かいその手の感覚がこれが現実であると証明している。
「どう、して…?」
 バーバラは思わず掠れた声を上げた。
「だって、アトラスは現実の世界にいる筈で、ここは夢の世界で――」
「うん。だから、俺は『俺』が見ている『夢』だ。」
 混乱するバーバラにアトラスは簡潔に答えた。その言葉に、バーバラは目から鱗が落ちるような思いをした。
 人は皆夢を見る。ならばこの夢の中に彼等が現れるのもまた当然のことであったのだ。どうして今の今までそんな当たり前の事に気付かなかったのだろうか・・・
「バーバラ?」
 呆然とアトラスを見遣るバーバラに、アトラスが首を傾ける。その動作の一つ一つがバーバラの良く知るアトラスそのもので、バーバラはなんだか憑き物が落ちた様な感覚に捕らわれた。


 そうだったのだ。会おうと思えばこんなに簡単に会うことが出来たのだ。


 そう思うと、バーバラは今までひとりうじうじと物思いに耽っていたことが馬鹿らしくなった。
「なんでもない。また会えて嬉しいよ、アトラス!」
「うん。俺もだ。」
 満面の笑みを浮かべてアトラスを見上げると、アトラスからも笑顔が返る。
「でもね、」
 バーバラは笑顔のまま、意を決した様子で続けた。
「あたし、とっても欲張りなの。夢の中でも目が覚めても、ずっとずっとアトラスに会いたい。アトラスだけじゃなくて、ハッサンにもミレーユにもチャモロにもアモスさんにもテリーにもドランゴにも皆に会いたい!」
 唐突な科白に驚くアトラスに、バーバラは更に続けた。


「ねぇ、アトラス。あたしがもし現実の世界に行く方法を探そうと思うって言ったら、応援してくれる?」
 アトラスはきょとんとして瞬いた後、優しい微笑を浮かべた。









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〜あとがき〜
ED直後主バ話のバーバラサイドです。 EDでのバーバラの心情と独りきりの孤独。夢の世界でのアトラスとの再会と現実の世界へ戻る事を決意する話し。 この捏造話の目標はこの話の中でバーバラの目標となった現実世界でのアトラスとバーバラとの再会となっております。 のわりにバーバラが贔屓キャラに入っていない不思議…実は初プレイ時EDを見るまで主ミレ派だったのです(笑)といってもSFC版の話ですのでもう随分と昔の話ですが。 その影響か初期三人が好きなせいかバーバラが殆どパーティ入りしなかったせいか友情とか家族愛とか好きなせいかバーバラより他の面子の方に転びがちです; 決してバーバラが嫌いなわけではないのですが…ED見て主バに転んで以来主バ一筋なんですけどね…
バーバラだけが離ればなれになるのは悲しいのでこの連作ではありとあらゆる手を使ってバーバラを現実世界に連れ戻そうと画策しています。 そして少女漫画ばりの砂吐き甘甘ものを目指してみようかと(笑)といいつつきっとCPものはそう多くならないと思いますが…











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