夢に消えた技術






 ダーマ神殿。人の持つ潜在能力を引き出し様々な可能性を生み出す『転職の儀』を取り行う神殿であり、 転職の儀により『勇者』となる者が現れることを恐れた魔物たちに滅ぼされた。
 そんな廃墟と化した神殿の中を調べ歩く、一人の少年の姿があった。少年の名はチャモロ。 勇者アトラスと共に世界を救った一行の一人で、神の使いたるゲントの一族の少年である。
 チャモロは廃墟の中、まだ無事な書物を探してはそれを熟読し、また他の書物を見つけてはそれを繰り返す。 そうやって長い時間を過ごしていたチャモロであったが、そんな彼の目前に一筋の光が降り注ぎ、チャモロは作業を中断した。
「チャモロ、こんなところにいたのね。」
 光が消え、そこから凛とした女性の声が放たれた。見上げれば金髪の美女と銀髪の青年が此方を見据えている。
「ミレーユさん、テリーさん。」
「うふふ。久しぶりね、チャモロ。」
 チャモロと姉弟との久々の再会であった。
「こんなところに来るなんて一体どうしたんですか?」
「少し伝えたい事があって、貴方を探していたのよ。」
「私を、ですか。」
「えぇ。それでゲントの長老様に、貴方が此処にいることを聞いて来たの。」
 わざわざ故郷にまで顔を出してくれたらしく、不在であった事を申し訳なく思いながら、チャモロは尋ねた。
「そうだったんですか。それで、伝えたいことというのは?」


 二人の伝えたいことというのは、テリーが旅先で出会ったアトラスと共に体験したという不思議な話であった。
 曰く、アモールの北の洞窟から不思議な空間に迷い込んでしまったこと。共にいたアトラスの話ではその空間が夢の世界のアモールの洞窟に酷似していたということ。 そしてその空間に現れたのがやたら強い実力を持った凶暴な魔物達であったということ。
「成程、不思議な話ですね。」
 大魔王が倒れ、夢と現実は元のように分かたれたにも関わらず現れた不思議な空間。魔物達が落ち着きを取り戻しつつある中で出会った凶暴な魔物達。
 まさか新たな魔王が現れたのではという不吉な考えが脳裏に過り、チャモロはその考えを振り払った。有り得ないというよりは有り得て欲しくない話である。
「テリーの話を聞いて、私もその洞窟を調べに行ってみたんだけど、その時は特に変わった様子は無かったわ。だけど一応皆には知らせておいた方が良いと思って。」
「解りました。私の方でも何か変わったことは無いか調べてみます。」
 今はアモールの洞窟以外でそのような事態が起きているという話は聞かないが、用心するに越したことは無いだろう。


「お願いね。…ところで、チャモロはこんなところで何をしているの?」
 ミレーユは疑問符を浮かべ辺りを見渡した。ここは廃墟。金目の物を求めて彷徨い歩く盗人以外、訪れるものは皆無である。 ミレーユ達は、夢と現実を行き来する為夢見の井戸があるこの地を何度となく訪れたが、今や夢見の井戸はただの枯井戸と化していて、夢の世界と繋がる事はもうないだろう。 そんな土地に、一体何の用があったのか。そんなミレーユの疑問に、チャモロは屹然と答えた。
「研究の為です。」
「研究?」
 首を傾けるミレーユにチャモロは頷いた。
「えぇ。夢の世界のダーマ神殿で行われていた転職の儀は人の様々な可能性を引き出す素晴らしいものでした。ですから、夢の世界との行き来が出来なくなってその技術が消えてしまうのは勿体ないと思ったんです。」
「それで転職の儀に関する研究をしているのね。それで、結果はどうだったの?」
 ミレーユの問い掛けにチャモロは苦笑する。
「それが、文献からその技術の原理について学ぶことは出来たのですが、生憎と試すことが出来ないので何とも…」
「そう…それは残念ね。」
 ミレーユの言葉にチャモロが頷き、辺りに沈黙が下りた。と、その時、テリーはある事を思い出した。 もしこの時その事を思い出さなければ、今後訪れる不幸を回避することが出来たのだが、今のテリーにそれを知る由は無い。 テリーはさして気にもせず、その事柄について口を開いた。
「そういえば、その洞窟でこんなものを見つけたんだが、これって悟りの書じゃないのか?」
 テリーは荷物からそれを取り出し二人に差し出した。
 アトラスと共に洞窟を探索した際に発見し、「テリーが見つけたんだから、テリーが持って行きなよ。」というアトラスの言葉の元、 テリーの物となったのだが、使い道が無かったため今の今まで鞄の中で眠っていたものである。
「…確かに、見覚えがある物だわね。」
「えぇ。悟りの書で間違い無いようです。しかし一体何の職業のものでしょうか……そうだ!」
 名案が思いついたと言わんばかりにチャモロはテリーを見上げた。
「テリーさん!転職の儀を受けてみませんか!?」
 それはテリーにとっては予想だにしない事態であった。今の職業に満足しているテリーにとって、何の職業のものかすら解らない悟りの書など無用の長物である。 ならばチャモロの研究に役立てられればと差し出したのだがまさかそういう方向に話が進むとは。
「いや、俺は――」
「大丈夫です!原理はきっちりと理解しましたから、失敗することは無い筈です!!」
 断ろうとするテリーだがチャモロの熱意に押されて後ずさる。更にそんなテリーに追い打ちを掛けるかのようにミレーユが口を開いた。
「あら、丁度いいじゃない。バトルマスターとしての経験はもう十分なんでしょう?」
「姉さんまで!?」
 否定するテリーを余所に話は進む。
「それでは早速。――この世のすべての命をつかさどる神よ!テリーに新たな人生を歩ませたまえ!」
「勝手に話を進めるな!!?」
 力ある言葉と共にテリーの体を神聖な光が包みこんだ。









点から降り注いだ光は瞬間的に強く輝いた後、テリーに変化を及ぼした。
「………おい」
 光が消え、テリーが低い声で唸った。
「……なんか、すごく弱くなったような気がするぞ…?」
 瞬間的に体力を根こそぎ持っていかれた様な感覚に陥り気だるい様子のテリーにチャモロは首を傾けた。
「おかしいですね。そんな筈は――」
 テリーと使い終わり効力を無くした悟りの書とを見比べ、チャモロはある事に気が付いた。
「こ、これは!!」
 そして何やら興奮した面持ちでチャモロは叫んだ。
「凄いですよ、テリーさん!この悟りの書、はぐれの悟りです!!」
 どうやら、使用した後になって漸くそれが何の職業の悟りの書であったのか理解したらしい。
「ならつまり、今のテリーの職業は『はぐれメタル』ということね。」
 はぐれメタル。DQ定番の凄まじい経験値を持ったスライムの亜種。
 その特徴は最高クラスの素早さと防御力。そして最低クラスの体力と攻撃力。
「ふざけるな!俺は最強の剣士になるんだ!!こんなんじゃ――」
「凄い!伝説の職業『はぐれメタル』。その能力を引き出すことに成功するなんて!凄いですよ、テリーさん、ミレーユさん!!」
「頑張ったわね、チャモロ。」
 焦るテリーを余所に盛り上がるチャモロとミレーユ。余程凄いことをしたという実感があるのかチャモロなど感激のあまり目尻に涙を溜めている。が、テリーにはそんなことはどうでもよかった。
「元に戻せ!!」
「何言ってるんですか!?そんな勿体ないこと出来るわけ無いじゃないですか。」
「そうよテリー。どうせバトルマスターとしてはもう充分な経験を積んでいるんですもの。此処はいっそ新しい可能性を開花させてみればいいじゃない。」
 どうやらテリーの意見とは関係なく、この職業を極めるまで元の職に戻る事は許されないらしい。
「畜生ーーー!!!」
 テリーは叫ぶや否や、脱兎のごとく駆け出した。その姿が見る見るうちに見えなくなり、残された二人は瞠目した。
「待って、テリー!何処へ行くの!?」
 これには流石に慌てた様子のミレーユであったが、片やもう一人はというと未だ興奮冷めやらぬ様子でぐっと拳を握りしめた。
「凄い!これがはぐれメタルの力ですね!」



 その後、熟練度稼ぎのために強い魔物を求めて旅立ったテリーが教会送りになった回数は、彼の名誉のために伏せておくこととする。 









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〜あとがき〜
チャモロはダーマの悟りを覚えた。
テリーははぐれメタルに転職した。
ということでED後捏造話における転職ルート確保の話でした。 ダーマの悟りは9賢者の悟りスキルを上げると覚える技で、使用するとダーマ神殿に行かなくても転職出来るようになるものです。(9プレイしてない人の為に念のため。) ED後捏造を書くにあたって、夢の世界に行けないから転職システムどうしようかな。と考えた結果こんな感じに纏まりました。
白昼夢から続いていますが正直な話半ば以上がチャモロとガンディーノ姉弟を出合わせる為の口実です。そして後半はギャグなのでキャラ崩壊;
この後テリー君のはぐメタ攻略記という名の受難が始まります。 悟りの書を見つけた人だからとテリーをはぐメタに転職させたのは実話です。その後、裏ダンでブレス攻撃で一撃死したテリー君。 この捏造話では無事はぐメタを攻略することは出来るのか!?ひとり飛び出して行ってしまったテリーの運命やいかに・・・
夢現シリーズチャモロ初登場ということで恒例?のステータス。
チャモロ:僧侶+魔法使い→賢者
後に武闘家→パラディンへと進みます。
それではここまで読んでいただきありがとうございました。











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