格闘場の一幕






 スライム格闘場。重度のスライム愛好家として知られるスラッジ老人によって造られた、 スライム好きによる、スライム好きの為の、スライム専用の格闘場である。
 アトラス一行も世界を救う旅の途中に訪れ、仲間の一人(正しくは一匹)であったスライムナイトのピエールが競技に参加して戦った経験がある。
 また、ピエールは当時のチャンピオンであったチャンプを破って最強ランクの戦いに勝利しており、新たなチャンピオンの登場に、多くのスライムやスライム使いたちが盛り上がったことは記憶に新しい。
 そんなスライム格闘場で新たな催しが開かれていると聞いて、アトラスは休暇を利用してこの地を訪れた。


「アトラス様ですね。お久しぶりです。どうぞお通り下さい。」
 受付のバニーガールに会員証を見せると笑顔と共に会場への道を示され、アトラスは会員証を懐に戻しながら会釈を返した。
「只今地下の格闘場にて魔物使いの方々による闘技大会が行われております。存分にお楽しみください!」
 バニーガールの一人から噂の催し物の内容を教えられ、アトラスは目を瞬かせた。
 てっきりスライムに関する何らかの催し物が執り行われているのだと思っていたがどうやらそうではないらしい。 此処スライム格闘場にしては珍しい取り組みが行われていることに驚きつつ、アトラスは格闘場のある地下への階段を下った。



 ◆



 歓声の響く地下へと辿り着くと、アトラスは大賑わいの客席の中から空席を探し当て席に着いた。
「こんにちは。隣、失礼します。」
「ああ。あんたもこの大会を見に来たのかい?」
「はい。新しい催しがされていると聞いたので好奇心で。」
「そうかい。丁度良かったな!これからその催しの決勝戦が始まるぞ!!」
 両隣りに座る観客と軽く会話を交わすと丁度戦闘の合間であるらしい闘技場の舞台を見下ろす。
 暫くの空白の後、舞台の北側にある入口の扉が開き、それぞれ三匹の魔物達を従えた二人の魔物使いが姿を現した。
「え?!」
 現れた二人の魔物使いの姿を見遣り、アトラスは目を剥いた。 片や銀の髪に青い服の少年、片や金の髪の可愛らしい少女である。その二人の少年少女に何処となく不思議な面影を感じたのだ。
「たとえ相手が姉さんだろうとも、俺たちは勝つ!いくぞ、みんな!!」
 銀の少年は姉らしい金の少女に勇ましく啖呵を切ると、周囲に集っていた魔物たちに気合の入った一声を上げた。
「私たちだって!負けないわよ!!」
 それに負けじと金の少女も声高に叫び、戦いの火蓋は切って落とされた。


「えーと…なんですか、あれ…?」
 銀の少年と金の少女の指示のもと、彼等が従えていた魔物達が一斉に相手の従える魔物達と戦い始めた。 その光景は、聞くまでもなく魔物使いたちの大会に相応しい。
 しかし、それでもアトラスは訊かずにはいられなかった。何故なら銀の少年と金の少女からアトラスが連想した人物たちと、目の前で真剣試合を繰り広げる彼等の姿にあまりにも大きなギャップを感じたからだ。
 そんなアトラスの考えなど知る由もなく傍に座る観客達は陽気に答えた。
「見ての通りさ!何でも、どこかに魔物使いたちが自分の仲間にした魔物達を戦わせる闘技場があったらしいんだけどね、魔王の手先の魔物達に滅ぼされて駄目になってしまったらしい。」
「だけど魔物使いたちにとってとても大事な大会があるとかどうとかで、同じモンスターを戦わせる者同士ということでスラッジさんに闘技場を貸してほしいと持ち掛けて来たんだそうだ。」
「因みにこの戦いがその大会の決勝戦だよ!魔物達に指示を出しているあの二人は姉弟らしくてね。両方ともその道ではとても有名な子どもたちらしい。」
「へ、へぇ…」
 そのとても有名らしい姉弟に見覚えがある気がするのは気のせいだろうか・・・
 気のせいに違いない。まさかこんなところでこんな形で出会うなど、有り得る筈がない。


 だって想像できないじゃないか。あんな風に姉に対抗心を燃やし、勝利を掴もうとするテリーなど。 勝負事に熱くなり弟に負けじと指示を飛ばすミレーユなど。 現実世界の二人の姿に今目の前で行われている少年少女の戦いを重ね合わせて想像してみるが、正直言ってありえない。
 嗚呼、だけど二人とも、やたらと魔物達と仲良くなる素質を持っていたような気がしないでもない・・・


 うん。見なかったことにしよう。
 金と銀の姉弟の熱い戦いに熱い歓声が送られるのを聞きながら、アトラスはそう結論付けた。


 嗚呼、でも、ハッサンやバーバラにこのことを教えてあげると喜ぶだろうか。
 心の平穏と仲間たちの喜ぶ姿を図りにかけながら黄昏るアトラスを余所に、試合終了のゴングが鳴り響いた。


 はてさて、勝利を手にしたのは姉か弟か―――


 好奇心から意識を中央の舞台に戻したアトラスは、奮闘した魔物達を労った後客席へと視線を上げた金の少女と眼があった。
 金の少女はアトラスを見遣ると軽く瞠目し、その後控えめに手を振った。
 銀の少年と金の少女の正体や如何に。その答えは金の少女の行動から明確に知らされた。









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〜あとがき〜
戦っていたのは勿論あの姉弟。 テリワンプレイ済みの方にはおわかりと思いますが、魔物使い達にとって大事な大会は『星降りの大会』をモデルにしてます。
テリワンはガンディーノ姉弟の幼少期のお話ですが、この捏造話では夢の世界のガンディーノ姉弟はまさにテリワン真っ最中という感じです。
とはいえ、私はテリワンは未クリア。某携帯獣でもそうなのですが、基本的に最初の仲間を降板させられない&ビジュアル可愛いのを重視してしまう私は モンスターズ系(1と2しかプレイしていませんが…)は向きません。1・2共に3〜4面辺りで挫折しております・・・
というわけで私はテリワンミレーユさんはプロローグのわるぼうに浚われていくシーン以外知りません。そもそもテリワンプレイしたのがもう何年前のことか・・・ なのでこのテリーとミレーユはほぼ捏造。(テリーは若干いたストテリーをモデルにしているようなしていないような…)


夢の世界の少女ミレーユはアトラス達との冒険のことはしっかりと覚えてます。 作中でははっきりと語られていませんが主人公とハッサンの境遇を考えるにミレーユさんもムドーの力で夢と現実に心と体を引き裂かれている筈ですからその繋がりで。
逆に心と体を引き裂かれていない夢テリーは冒険のことを覚えていません。但し、この後アトラス達と関わる中で「なんかこいつ知っているような気がする」 と既視感を感じたりはすると思います。夢の夢は現実ですからね。


以上の捏造設定を踏まえるに、この連作における夢テリーのワンダーランドな軌跡は、
何らかの理由で姉が行方不明になる(この間姉は夢と現実を救う冒険中)。→姉を探して初めての仲間スラリンと共に旅に出る。 →姉を探しつつモンスターマスターになるため修行の旅→モンスターマスターになるため星降りの大会に出場(魔物の進撃により本来の会場は崩壊してしまったためスライム格闘場で開催)。 →なんだか解らないが行方不明だったはずの姉と決勝戦で対決。
といった感じでしょうか。姉が行方不明になる理由とかは置いといて、なんだかんだでほぼ原作テリワンと似たような経緯を辿っている捏造夢テリー少年です。
そしてテリー少年のモンスターマスターへの道を掛けた勝負の行方はご想像にお任せします(笑)











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