悪夢〜青い閃光の場合〜






「テリー、私たち、付き合うことになったの。」
 そう言って姉の横から現れたのは日に焼けた褐色の肌の筋肉質な巨漢の青年。
「そういうわけで、改めてよろしくな。テリー、弟よ!」
「おっ、弟!?」
 太陽が似合う見た目の通り、人当たりの良い笑みを浮かべてそう告げた青年に、テリーは声を失った。
「やだ、ハッサンったら。気が早いわ。」
「何言ってるんだよ。ミレーユの弟なら俺の弟も同然だろ。」
 そんなテリーを余所にピンクのオーラに包まれて向かい合う二人。
「ハッサン…」
「ミレーユ…」
 うふふ〜、あはは〜。
 花を散らして駆け行く二人を、テリーは身動きすることすら出来ずに見送った。









「――という夢を見たんだ!!」
「…夢の内容よりもどうやって此処に来たのか知りたいんだけどね。」
 此処はレイドックの王城、アトラスの部屋。付け加えると時間は太陽も登りきらぬ早朝である。 見張りの兵士に気付かれることなく入り込んだらしいこの友人は、夢の中にいたアトラスを叩き起こすと突如として冒頭の夢を語り始めたのである。
「ルーラで飛んできた!」
(そんなことのためにわざわざ…)
 嫌がりながらも懸命に修業を続けて覚えた呪文のあんまりな使い道にアトラスは心中で溜息を吐いた。そしてもう一つ、 夢の内容に怒り冷めやらぬ様子のテリーに対し、見てとれるよう深々と息を吐く。こちとら気持ちよく眠っていたところを叩き起こされたのだ、これくらいは許されるだろう。
「良いじゃないか。なんだかんだでミレーユはハッサンのこと気にしてるみたいだし、お似合いだと思うけどな。」
 テリーには悪いが本心である。ハッサンもミレーユもアトラスにとっては旅の一番初めの頃から共に行動していた大切な仲間達であるから、その二人が上手くいくのだとすればこれほど嬉しい事は無い。
「良くない!!あんな筋肉馬鹿と姉さんが――!!」
 テリーの脳裏に夢で見た光景が思い浮かぶ。
「とにかく駄目だ!」
 そんなテリーの様子に、アトラスは苦笑した。
「まぁ、安心しなよ。夢の世界で二人が出会っているのならともかくとして、そうでなかったとしたら君が見たのは夢ですらない。」
「…夢じゃなかったとしたら俺が寝ている間に見ているのは何なんだよ?!」
 妙な所で冷静なテリーに突っ込まれ、アトラスは考える。
「……夢のまた夢?」
「それは現実じゃねーか!!」
「あ、そうか…」

「大丈夫だよ、テリー。ハッサンは物凄く鈍いから、暫くはミレーユの片想いから進展することはないって。」
「それはそれで腹が立つ。」
「あれ?」
 アトラスとしてはフォローを入れたつもりであったのだが、どうやら的外れであったらしい。テリーは再び憤慨した。
「姉さんに想いを寄せられていて気付かないとはどういうことだ!!」
 なんて理不尽な考えだ。アトラスはそう思ったが憤慨するテリーの様子に口を挟むことを諦める。
「大体、なんで俺がハッサンに「弟よ!」なんて呼ばれなくちゃならないんだ!!」
「…まぁ、将来呼ばれることになるかもしれないんだし、予行練習ってことでいいんじゃないかな?」
「良い訳あるか!俺より弱い奴が姉さんと付き合うなんて認めない!!」
「いや、互角に戦えるでしょ。ハッサンなんだし。」
 冷静に突っ込むアトラスだが、その言葉はテリーの耳には届かなかったらしい。
「…そうだ、俺より弱い奴に姉さんを守れるわけ無いんだ。」
「えーと…テリー?」
 唸るように呟いたテリーの様子に只ならぬ何かを感じ、アトラスは恐る恐る彼の名を呼んだ。
「邪魔したな、アトラス。それと、俺の方がハッサンより強いってことを証明してやる!今に見てろよ!」
 アトラスが、あぁ、俺の話、ちゃんと聞いてたのか。とか、ハッサンに挑みに行くつもりなのか。こんな朝早くからよくやるなぁ。とか考えているうちに、 テリーは窓から身を乗り出して呪文を唱え、瞬く間にその場から姿を消した。


「…あ、」
 暫くの間、テリーが飛び去った空を呆然と見上げていたアトラスであったが、あることを思い出し呟いた。
「テリーの奴、職業はぐれメタルのままだったんじゃないのかな?」
 サンマリーノの町で倒れ伏すテリーの姿が見えた様な気がした。









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〜あとがき〜
シスコン同盟ことアトラスとテリーの話。青い閃光の場合ということで勿論対になるレイドック王子の場合も考えてます(笑) 自分の事は棚に上げて相手に相談された時は酷く冷静な対応をする人々。
姉離れ出来ないテリーとそんなテリーの気持ちも解らないではないが二人には幸せになってもらいたいアトラス。 この話、一番可哀想なのは早朝に叩き起こされたアトラスか、朝一番から突然勝負を仕掛けられることになるハッサンか、 はたまたやっぱり姉(とチャモロ)のせいで返り討ちにあうであろうテリーか・・・
はぐメタ攻略記としては、テリーはルーラを覚えた。ということで。熟練度半分までクリアの段階です。 ・・・しかし、本当の悪夢は此処からである。
それではここまで読んでいただきありがとうございました。











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