レイドックの国王は自らが勇敢に魔王ムドーと戦っていたことで有名であるが、その実遊び好きな一面を持つということも彼と親しい間柄にある人々には周知の事実である。 大魔王が討伐されて世界が平和になってからというもののレイドックはその遊び好きな一面を遺憾なく発揮していた。 長年レイドックに仕える大臣の結婚記念日だというその夜も遊び好きなレイドックの発案の元、レイドック城では盛大なパーティが催されていた。 パーティも中ほどに差し掛かったところで、アトラスは呼び寄せたかつての旅の仲間たちの姿を探した。 付き合いの良いハッサンやアモス、チャモロやミレーユだけでなく、 今日のパーティにはこういった場を好まない筈のテリーや魔物であることを理由に独りの時には殆ど人里に近付かないドランゴも訪れている。 テリーなど強引にミレーユに誘われて来たらしいが、結果的にバーバラを除いた皆で集まれたのだからテリーには申し訳ないがアトラスはミレーユに感謝した。 とはいえパーティが始まるとアトラスは忙しく動き回らなければならず早々に仲間たちの姿を見失ってしまっていた。 主催であるレイドックの国の王子として主賓として招かれた貴族達の相手をせねばならなかった為だ。 初めは会食が中心だったメイン会場である中庭もアトラスが解放された頃には円舞曲の演奏に合わせた踊りの席へと変わっていた。 仲間たちの誰も踊りの輪の中に混じっていない事を確認すると、アトラスは流石にもうこの中庭には仲間たちの誰もいないだろうと当たりを付けた。 城の内部に皆を探しに行こうとしたアトラスは中庭の隅で一際存在感を主張する美しい女性の姿を見つけた。 「ミレーユ!」 女性―ミレーユはアトラスが早足に近付いてくる事に気付くと微笑し手を振ってそれを迎えた。 「アトラス、お客様のお相手はもういいのかしら?」 アトラスは肩を竦めた。 「実は、早く皆と話したくて父上と母上に後を任せて来たんだ。」 「あら!」 苦笑するアトラスにミレーユもおどけた様に笑った。 二人でひとしきり笑ったところでアトラスはふと気になっていた事を問うた。 「ところでミレーユ、ハッサンと話をしてたんじゃなかったの?」 アトラスが最後にミレーユを見かけた時には彼女の隣にはハッサンが居て、二人で談笑していた筈である。それなのにミレーユはひとりで会場の一角に佇んでいた。 アトラスの疑問に今度はミレーユが肩を竦めて苦笑した。 「えぇ。そうなんだけど…彼、ダンスが始まると早々に引き揚げていってしまったわ。」 そう言ってミレーユはその視線を上階の通路へと向けた。そこに見覚えのある巨漢の青年の姿を見つけ、アトラスは肩を竦めた。 「確かに彼、ダンスは苦手そうだね。」 「本人もそう言っていたわ。それで私はひとりあぶれてしまったの。」 苦笑するミレーユにアトラスはおどけた調子で笑った。 「よく言うよ。君を誘いたくて此方の様子を窺っている男たちが一体いくらいる事か。」 アトラスはそっと周囲を見遣った。絶世の美女をエスコートしようと集まった男たちが遠巻きに此方を伺っている。 王子であるアトラスが傍に居る今声を掛けようとする強者はいないが、それ以前からお互いに牽制し合い誰も声を掛ける事が出来なかったのだろう。 「あら、そういうアトラスこそ、沢山のお嬢さま達が貴方にエスコートして貰うのを待ってるわよ。」 ミレーユがさりげなくアトラスの背後を見遣った。アトラスと懇意になりたいという良家の令嬢達がミレーユの登場に煩わし気に此方を見つめている。アトラスは困ったように苦笑した。 「あらあら、女の人に好意を寄せられてする顔じゃあないわね…何かあったの?」 「うん。最近貴族の人達からの縁談話が多くて…」 「ならあのお嬢さま達はその相手という事かしら。」 アトラスは肯定の笑みを返した。察しの良いミレーユはそれだけでアトラスの置かれている状況を理解する。 アトラスにはバーバラという心に決めた女性がいる。だからこのような舞台で彼女達の誘いを受けて期待を持たせるような事をしたくないのだろう。 「…そうだ!」 アトラスは名案を思いついたとばかりに手を叩くと、ミレーユの前に膝を折り手を差し伸べた。 「宜しければご一緒に、如何ですか?」 「あら、私なんかで構わないのかしら、王子様?」 ミレーユがおどけた口調で返しながら手を重ねると、アトラスはその手の甲に口づけを落とした。 「えぇ。貴方のような素敵な女性と踊れるのであれば、光栄の極みです。」 円舞曲の優雅な旋律に合わせ、二人は華麗な舞を踊った。 ◆ その頃、招待を受けこの場に集ったパーティの男四人とドランゴは、二階の渡り廊下で豪勢な食事にありつきながら中庭の様子を窺っていた。 「ギルルン、アトラスとミレーユ、踊ってる…のか?」 「あ、本当ですね! いやー、美男美女とは絵になりますねー!」 「それにしても、姉さんはともかくとしてアトラスの奴ダンスなんて出来たんだな。」 「まぁ、王子様ですからね。」 ミレーユの力を宿した舞にはパーティ全員世話になったが、アトラスが踊った所など彼等は誰一人として見たことが無かった。 彼の身分を考えればダンスの心得があること自体は不思議な事ではないのだが、優雅に踊る彼は彼等の知るアトラスのイメージからは何となく違って見えた。 「なんだか、今日のアトラスさんは私たちからは遠い存在のように思えます。」 ダンスだけではない。豪華な貴族の服に身を包み、王子然と振舞うアトラスは共に冒険をした青年とは違った雰囲気を放っていて、チャモロは思わずそう呟いた。 「そうか?アトラスはアトラスだろ?」 それにきょとんとして返事を返したのはハッサンである。チャモロはあっさりとそう返したハッサンの姿をまじまじと見遣った。 「?」 「いえ、その真直ぐさがハッサンさんの良い所だなと。」 しかしその真直ぐさ故に、自身に寄せられる好意に気付かないのはどうしたものか。今日だってミレーユは、本当はハッサンと踊りたかったのではないだろうか。 踊りといえば―― 「そういえば、皆さんは踊らないんですか?」 ふと思いつきチャモロは尋ねた。 「よせやい。柄じゃない。」 「同感だ。俺は義理で来てやっただけなんでね。」 「ギルル…私、おどるなら、テリーとがいい。」 「……」 「いやー。私は、少しお酒を飲み過ぎてしまいまして…踊ろうとしたら足がもつれちゃいましたよ。あっはっは。」 それぞれの理由から踊りの輪に混じることを拒否した三人。テリーが踊らない以上ドランゴも踊るつもりは無いらしい。 尋ねたチャモロも同様にこれから踊りの輪に混じるつもりはなく、再び皆はアトラスとミレーユに視線を落とした。 円舞曲が終わりを迎え、踊っていた二人が手を振るのが見えた。皆が各々それに応えると二人は連れたって建物の中に姿を消した。 そして暫く後、アトラスはミレーユの手を引き、皆の元へと現れた。 「よお!アトラス、ミレーユ。見事なダンスだったぜ!」 「うふふ。ありがとう。」 「皆、これから俺の部屋に来ないかい?」 他愛ないやりとりの合間に、アトラスはそう提案した。 「せっかく久しぶりに皆揃ったんだから、聞きたい事とか話したい事とか沢山あるんだ。」 皆がそれぞれ反応を返し、アトラスを先頭にして場所を移す。 本当はあと一人足りないけれど、それでも皆が自分の道を歩み始めた今これだけのメンバーが揃うこと自体が珍しくて、 この時間が長く続けばいいとアトラスは空に願った。 MENU NOVEL TOP 〜あとがき〜 2014年7月27日、初めてドラクエコンサートに行ってきました。会場に入った途端、本番前の調整をしておられる楽団の人達が奏でるメロディにテンションだだ上がりで、 序曲のマーチや木漏れ日の中でなど6の神曲が続き、本気で泣きそうになりました。 そのテンションのまま今なら書きかけだった6小説たちを今なら仕上げられる気がして書いてみたところ予想通り軽快に作業が進みました。 いくつか書きかけたちが溜まっているのでモチベーションが続く限り書いて行きたいと思います。 今回の話自体には特にテーマ性がある訳では無く王子様やってるアトラスや男性に魅入られるミレーユを書きたかっただけという。 あと主ミレはかっこよさの値的に公式美形なので並んでると美男美女カップルだなぁと(笑)パーティを開催する理由を出来るだけくだらないものにするのに無駄に苦労しました。 |